イキウメ「狂想のユニオン」@吉祥寺シアター

(あらすじ)
歌舞伎町で風俗店の調査をしていたはずの警官・有馬は、気が付いたら全く知らない場所にいた。不快な臭気が充満したその場所には怪しい男達がいて、彼はその男達と相対する事になったのだが、その臭いに耐え切れずに気を失ってしまう。
一方、車で実家に向かっていた姉弟と、姉の婚約者の3人も気が付いたら、全く見ず知らずの世界にいた。その世界の弟は2年前からその場所に住んでいて、姉の事を亡くなった親友の彼女だったと言い張り、姉と婚約者は彼の態度に困惑する。
「市長」と名乗る男や自分のことを「保安官」だと言う男達がいるその街。
婚約者の田宮のGPSには、そこに存在しているのは神社だけで、その街は存在していないことになっている。じゃあ、彼等が現実に見ているこの光景は一体・・・。
(感想)
私を観劇の世界へと引きずり込んだ原因となった劇団の1つであり、今回の公演もとても楽しみにしていた反面、サンモールスタジオから吉祥寺シアターへと会場が大きくなることによって、過去観たような舞台の濃密な空間の密度が希薄になるのではないかという一抹の不安もありました。確かに前回公演の「PLAYeR」を観た時のような、ピンと張り詰めた空気には少し及ばなかったように感じましたけど、その分は物語も舞台も仕掛けもワンランクスケールアップしています。その結果、観る人をより選ぶような作風になったとは思いますけど、より規模の大きな劇場でもやれることを立派に証明した作品だったように感じます。
人間関係やプロットが複雑に絡まりあうなか、妄想が現実化する世界を描くことによって、日常と非日常に揺らぎを与えてくれます。ちょっと筋立てを複雑にしすぎた感じがして、私自身はストーリーや物語の仕掛けを呑み込むまでにちょっと時間がかかりましたけど、現実と妄想との違いを前半に明示しておいて、それを歩み寄らせて私達を混沌とした世界へと放り込んでくれる手並みは見事です。その世界にたどり着いた時の日常が侵食されていくようなゾクゾクとするような感触がこの劇団の作品を観る時の一番の楽しみです。発想は突飛ですし、セリフ回しは一捻り利いていますけど、そこへ持っていくプロセスというのは一歩一歩とても丁寧で、それが見るからに嘘くさい設定にリアリティを与えてくれているように感じます。
全体的にとても見応えがあったのですけど、ややフラストレーションを感じたのが、ある意味観客に結論を委ねるラストシーンの部分です。過去の公演よりも前半を複雑にした分、後半もそれに見合った重量感かほつれた糸が綺麗に解けるような爽快感か、どちらかが欲しかったように思いました。おそらくこの作品の主眼は私達の固定観念が非常に脆い基盤の上に立っていること、その現実と非現実のはざまに観ている人を放り込むことそのものにあるのだろうと思います。そういうふうに考えると、現実と非現実のどちらかの側に明確に着地してしまった時点で、この作品は成立しないんだろうとは思います。
それは分かってはいるのですけど・・・。それでも、私達の中ではなく作・演出の前川知大さんの中にあるこの作品の先にある物語を見せて欲しいと強く感じるのは、私だけなのでしょうか?