東京デスロック「その人知らず」@こまばアゴラ劇場

この公演を以って、「東京」での公演活動が休止になるらしい「東京」デスロック。劇場の支援会員のチケットもまだ残っているし、という軽い気持ちで行ったのはいいのですが、公演時間が休憩時間も含めて3時間ぐらいらしいとのこと。翌々日からの仕事に差支えがでなければいいのだけど、という一抹の不安を抱えながら劇場に。
今回の公演では三好十郎の戯曲を取り上げるということですが、全く恥ずかしいことに自分にとっては「誰それ?全く知らん」といった存在。けど始まってみれば、これがものすごく刺激的で面白い。徴兵拒否という人道的に見たら正義に思えることが、それを頑固に貫こうとすればするほど家族や周囲が不幸になっていき、父は自殺し、母は気が狂い、妹は目が見えなくなり、弟はやけになって戦死してしまう。こんなすさまじい板ばさみが説得力を持って描かれるのも、実際に戦争を体験したからこそだと思います。けど、それだけに舞台になった当時の世相と密着しているだけに、そのままストレートに演じても決して面白い作品にならないも事実。戯曲の良さをストレートに出しつつ、今の時代に観客の鑑賞に耐えられる作品を作るという、ややもすると矛盾する課題に取り組むのはものすごく困難な作業だったと思います。あえてそこに取り組んで、自分のような人間に三好十郎という劇作家の作品を紹介してくれた、それだけでも十分に観に行った価値はあったと思います。
ただ、いくら刺激的な作品だったとはいっても、何か納得できないフラストレーションのようなものを感じてしまったのも確か。ものすごく大ざっぱに分けて、舞台には「何を見せるか」という部分と「どう見せるのか」という部分があると思うのですが、そのうちの「どう見せるのか」という部分が、スタッフワークも含めて前者と比べてややおろそかになっているように思えてしまった部分があったのが、その最大の理由。間違っても、快適に見せるだけがいいとは思ってはいませんが、必要な部分では演劇に注がれている過剰なまでの「愛」を、ほんのちょっとでいいので「観客」に回して欲しいと感じてしまうのは自分だけでしょうか?
個人的には他にはない素晴らしいセンスの持った劇団だと信じているだけに、東京以外の場所でさまざまな人にもまれながらも、もっと観客に伝えるということに目を向けていって欲しいと思います。その時には、東京以外の場所でも足を運ばせていただこうかと思っています。

「新年工場見学会」@アトリエヘリコプター

五反田団」と「ハイバイ」周りの人達が集って出し物を上演したり、獅子舞らしきものが登場したり、バンドの生演奏があったりと、正月気分満載の2時間半たっぷりのイベント。毎年恒例らしいのですが、隣では、去年のワークショップで大変お世話になった六尺堂さんの工房見学会もあるということだったので、今年は始めて行って来ました。
五反田団」は、少女マンガのニセモノっぽい作品。いかにも少女マンガ風のキャラクター、セリフ回し、ストーリーというこれでもかというベタな展開が続いても、役者さんがセリフをとちりまくろうと、自分が置いた小道具にけつまずこうと、それでも大爆笑になるのだから、前田司郎さんという人は、ホントにすごい。お祭り的要素が強いと言っても、某戯曲賞を取っても、新国立劇場でひどいめに合おうと、あえて自分のリズムを崩さず、作劇について深く考えずにどこまでくだらなさを追求して行けるのか、今後も見てみたい。
極めて個人的な話になりますが、生まれて始めて書いた劇評で前回公演の「すてるたび」が面白かった、と書いたら、某講師の先生から「あんなもん見てどこが面白いんですか」と言われてしまったこともあったので、ゆるく見返して欲しいと思っています。(まあ、何を観て面白いと感じるかは人それぞれですし、その差が大きいことや、それを自分で体感できるってことが舞台の面白さっていえば、全くその通りなのですが・・・)五反田団みたいな劇団の作品ってこれから芝居を観るっていう人の裾野を広げていくためには、ものすごく大切だと思うのですけどね。
「ハイバイ」はチャゲ&飛鳥のニセモノっぽい作品。飛鳥に隠れてやや影が薄いチャゲを、「あなたのチャゲ」と称して自己啓発セミナー風に味付けしていく切り口にはとにかく笑った。「チャゲのふり見て、我がふり(ちゃげ)直せ」というセリフは、自分の中ではものすごくツボ。実生活でもゼヒ使ってみたいです。

出し物だけでなく、観客も正月休み早々こんなとこに来てしまう人達だったということもあって、とっても温かくて緩い雰囲気だったのですが、この熱くも冷たくもない適度な温度が、まるで温めの温泉に浸かっているように何とも心地いい。少なくても、家ですることもなくぼけ〜とテレビを見ているよりは、よっぽど楽しくて意味のある時間が過ごせたと思います。

印象に残った作品2008

新年も明けてしまいましたが、どうも今一つ年を越した気分にならないので、今更ながら去年を振り返ってみようと思います。去年は観劇数を減らして、その分戯曲を読もう、本はもうちょっと新刊を読もう、そして映画を見ようとか、いろいろなことを考えたのですが、結局、思い通りになりませんでした。結局、観劇数は110を超えてしまい、本の冊数は何とか200を超えたもののそのほとんどが古い作品でした。個人的には、今年はもっと読書量も観劇量も絞って、何か体感できるような体験をしてみたいと思っていますが。
去年はいろんなことに挑戦して多忙だったり、自分は何でこんな駄文を書き散らしているのかそのことに疑問を感じてしまったりして、ブログの更新が全くできませんでしたが、今年は自己満足と備忘録だと割り切って、観たものや、読んだもの、そして体験したことについて、たとえ1行でも書いていこうかと思っています。一年の計は元旦にあり。どんな事でも、続けていくことが結構大切です。
(もっとも仕事が始まって2日位したら忘れていると思いますが・・・。)

(本)印象に残った10冊
ルーセル「アフリカの印象」平凡社ライブラリー
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岸本佐知子「気になる部分」白水uブックス
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松岡正剛「知の編集術」講談社現代新書
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・ケルアック「オン・ザ・ロード」河出書房新社
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石牟礼道子「新版 苦海浄土講談社文庫
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佐藤優国家の罠新潮文庫
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内澤旬子「世界屠蓄紀行」解放出版社
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・北川達夫、平田オリザ「ニッポンには対話がない」三省堂書店
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・スティーブ・エリクソン「黒い時計の旅」白水uブックス
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三島由紀夫「近代能楽集」新潮文庫
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順番は読んだ順です。
基本的には読書というのは私的な体験だと思いますが、そういった傾向が益々強くなっていくなと感じます。よく言えば、年を取ってようやく、自分の価値感に基いて独断と偏見で本が読めるようになったともいえます。去年は、生まれて始めて読書会に参加させていただいて、目一杯の顰蹙を買いつつも、それ以上にいろいろなことを勉強させていただいたりもして、とても貴重な体験をさせていただきました。今年はもうちょっと新刊の読書量を増やしつつ、「自分が本とどんな関わり方ができるのか?」ということを去年以上に考えていけたらなと思っています。


(舞台)印象に残った10本
・ポカリン記憶舎「humming2」@MURIWUI

・風琴工房「hg」@ザ・スズナリ

・渡辺原四郎商店「ショウジさんの息子」@アトリエ春風舎

・toi「あゆみ」@王子小劇場

・ハイバイ「手」@駅前劇場

三条会真夏の夜の夢」@千葉公園内特設野外劇場

・サンプル「家族の肖像」@アトリエヘリコプター

Nibroll「Small Island」@ZAIM

・studio salt「中島正人」@相鉄本多劇場

KERA MAP「あれから」@世田谷パブリックシアター

去年は自分の中で、「人に伝わるとは?」ということを演劇以外のいろいろな場で考えさせられることが多かった1年でした。それが分からなくなってしまってブログを書かなくなってしまっただけになお更なんだろうと思います。私が選んだ10本も、どんな形であれ自分の中に何らかの「伝わった」ものを頂いた作品だったように感じます。
その他で印象に残ったのは、パラドックス定数「Hide AND Seeks」、木下歌舞伎、地点「桜の園」等でしょうか?「例年と違ったものを見よう」と思っていたら、奇しくも東京以外のカンパニーの作品に印象に残るものが多かったようです。映像ですが、去年に始めて観てぶん殴られるような気分になったdumb typeも確か京都でしたし・・・。
自分が観ていなかったり知らなかったというだけで、素晴らしい作品を作っている方々がまだまだ沢山いるんだということを思い知らされた1年でした。だから、観劇はやめられない、けど本数は減らしたい。今年もこのジレンマに苦しみそうです。

カフカ「流刑地にて―カフカコレクション」

流刑地にて―カフカ・コレクション (白水uブックス)

流刑地にて―カフカ・コレクション (白水uブックス)

五反田団といわきから来た女子高生「あらわれる、飛んでみる、いなくなる」@アトリエヘリコプター

高校時代に観た演劇部の舞台がこの世のものとは思えない位のつまらなさで、その時のショックから10数年間舞台が観れなかった自分。もし、高校時代にこんな作品が観れたとしたら、自分の人生も、もうっちょっとだけまともなものになったのかもしれない、そんな気分にさせてくれた作品。
そりゃあ、細かいことを言えば、いくら前田司郎さんの脚本・演出だとは言っても、高校の演劇部ですから、細かい部分ではぎこちないなあと感じないかと言ったら、それはウソになる。けど、前田さんの作品の面白さを生かしつつ、女子高生という強みをフルに生かしていて、とても面白い。第1、女子高生8人で1時間25分間も場を持たすということが、日常生活で3分も場を持たせられない自分にとっては素直にすごいと思う。
隣町が謎の怪物に襲われてピンチっぽくっても、野球部の応援を考えたり、好きな子に告白したり、その告白した子の彼女がそこにいる友達だったり、エコに走ってみたり・・・、とまあ、劇中でいろんなことが起こっているけど、それが彼女達の日常のノリで語られていたりしている。その辺のノリっていうのは、以前読んだ前田さんの「恋愛の解体と北区の滅亡」にちょっと似ているかなあ、と思いつつも、細かいことはまあ面白かったからいいや、ということで。
会話の部分のおかしさもそうなのですが、見事な位個性が違った方向でキャラが立ってしまっている女子高生達一人一人と、そんな彼女達が沈黙の時に生み出される、絶妙な場の空気が個人的には一番おかしかったです。こういう場を作り出すのって、意図的に狙って絶対に作り出せるもんじゃあないですし、だからこそ貴重だしそれを引っ張りだせるっていうのはホントに凄いなあって思います。

プレ再開してみます

多忙だったり心身ともに疲れきってしまったため、演劇の感想が追いつかなくなってし続けていくモチベーションを見事なまでに喪失して、逃げるように一時中断していたのが今年の冬。一度辞めてしまうと、再開するきっかけがどうしても見つからずダラダラとしていましたが、ようやくもう一度やり直してみようという気分になってきました。前回は律儀にやろうとして破綻したので、今回はゆるい変わりに長くを心がけて、少しでも続けていけたらと思っています。もともとひどい文章でしたが、自分が見たり読んだりしたものの備忘録や書きなぐりのメモのような日記になると思われるので、その傾向は曲がりなりにも感想を書こうとしていた破綻前以上に磨きがかかると思いますが、もしこんな日記でも目を通していただけたらありがたいです。

実は、今、日曜日に受験するビジネス実務法務3級試験の勉強の追い込み中。本格的に書き始めるのは来週からになるかとは思います。
がんばろうという意欲も、再開に向けた抱負も特にありませんが、どうかよろしくお願いします。

親族代表THE LIVE「(発電所)」@THEATER/TOPS

嶋村太一さん、竹井亮介さん、野間口徹さんの3人のコントユニット、親族代表の久々の公演。個人的に「やっと!」と思っていた矢先の嶋村さんのケガによる降板があったのはとても残念ですが、今回は4人の代役を立ててのコントオムニバスの5本立て。豪華脚本陣と代役と呼ぶには失礼なキャスティングで、しょっぱなのアルプスの少女ハイジに扮した竹井さんの替え歌から始まって、笑いっぱなしの80分。とても楽しませてもらいました。降板が出たということもあって、所々に新しい試みを加えながらも全体的には手堅いなという印象。前回公演と比較した場合、良く言えば上品で奇麗、悪くいえばあっさりして淡白な感じがしました。これは担当した脚本家さんの差が大きかったとは思いますが。(前回公演に千葉雅子さんが、今回はケラさんが入っている。これだけで随分とイメージが変わらない訳がないという当たり前のことに後になって気がつきました。)
ただ、淡白な印象を受けたのは、それだけではなく、嶋村さんが不在の影響があったのも確か。その分だけ作品のねちっこさやツッコミの厳しさがちょっとだけパワーダウンしてしまったのが何とも言えず残念でした。
充分に面白い公演だったとは思いますが、開演前に過去の公演のコントの映像で3人の絶妙なアンサンブルを見せられてしまうと、このユニットは3人揃ってこそ始めて100パーセント以上の力が出せるのだということを再確認させられてしまいました。
嶋村さんには元気になっていただいて、次回はまた3人揃った舞台を見せてもらいたいものです。

作品ごとの感想は書けるようでししたら、またアップします。