五反田団「いや、むしろわすれて草」@こまばアゴラ劇場

(あらすじ)
八百屋の娘として生まれてきた4人姉妹の話。病気がちな三女を中心に、喧嘩をしたり、恋の話しをしたり、家族でボーリングに行ったり、それなりに平穏なふつうの日常を過ごしている。
ところが、時間の経過とともに、少しずつ色々な事が変わってしまった。父の八百屋は潰れ、母は蒸発しどこかに行ってしまい、姉妹はそれぞれバラバラになり、そして三女は病院での生活を余儀なくされる。
それでも淡々と、幸福だったり不幸だったりしながら、日常は続いている。
(感想)
普通に舞台を眺めている分には、無色透明に見えるけど、じっくりと目を凝らしてみると、そこには登場人物達の感情の揺れが確かにあって、繊細な淡い色彩が確かに着いている。そんな感じの水彩画を見ているような気分になった作品です。脚本ももちろんなのですが、あまりどぎつくなることはなくかと言って色ムラが出来る訳でもない、そんななかなかデリケートな空間を作り出しつつ、役者さんの魅力を上手く引き出した、前田司郎さんの演出の上手さが光る作品です。演出も勿論なのですが、かなり難しい要求にきちんと答えた役者さんの力が今回は大きかったと思います。特にここが魅力がなかったら、芝居そのものが全くつまらなくなってしまうという4姉妹役の役者さんは、それぞれいい役者さんを選んだなと思います。特に、個人的には四女役の後藤飛鳥さんが本当にいいです。仮に多少のミスとかあっても(実際にはほとんどありませんでしたけど)、それはそれでいいのかな、という気分になります。4姉妹役以外の役者さんでは父親役の志賀廣太郎さんがとてもいい味を出していて、とても良かったです。
さらりと当たり前の日常として描かれているのですが、実際にはかなり残酷な話しだと思います。ただ、そんな残酷な出来事というのは、概してテレビドラマのように、ある日劇的に起こるわけではなく、この作品のように気がつかないうちにそうなっていたり、いつの間にか日常に埋没しているものなのかもしれません。そういう考え方で観ると、この作品のまるで純文学のようにいつ終るともなく続いていくというスタイルは、この題材にとても良くはまっています。ある意味とっても怖く、また一方で救いも感じる作品で、やっぱりタダ者ではないなと改めて思いました。アゴラ劇場で開場する前に今回の公演くらい多くのお客さんを見たのは始めてですし、相変わらずの会場の狭さにはやや閉口しましたが、それを差し引いても納得できる出来の作品でした。