G-up BackupSeries「棄憶〜kioku〜」@恵比寿site

(あらすじ―ちらしより)
1948年
第二次世界大戦から3年弱が過ぎ、あの部隊に居た男達に一通の手紙が届く。
封筒の裏には「ここ」の住所と日時が記載されている。
差出人名無し。
その住所は旧陸軍軍医学校跡地。
現在は廃墟になった「ここ」に何故彼等は集められたのか。
・・・あの「棄憶」が蘇る。

(感想)
個人的にハマっているパラドックス定数の野木萌葱さんの脚本作品で、出演陣にキャラメルボックスの大内厚雄さんの名前があり、その脇を固める役者さんもクセ者揃い。これは行くしかないだろうと速攻でチケットを取ったら、「諸般の事情」という何の説明にもなっていない理由での突然の演目変更。演目そのものよりも、上演までの時間の無さをかなり危惧していたのですが、入りの部分については残念ながらそれがモロに出てしまった印象を受けます。ギャラリーという会場の制約もあるのでしょうが、音楽と役者さんと会場の空間との間にズレが生じてしまい、会場が作品の中に馴染んでおらず、ギクシャクとしてしまったり、スカスカになってしまった場所だけ作品の世界ではない現実世界に取り残されてしまった感があります。ただ、そんなズレを序盤の早い段階で修正して、脚本の助けも受けて尻上がりに緊迫感を持たせていったあたりは、役者さん達の底力がなせる業。紆余曲折こそありましたけど、追加キャストも含めて実力派で固めただけのことはあります。お目当ての大内さんももちろんなのですが、特に扉座の有馬自由さんの飄々とした中に凄みを見せる元軍医少将役は絶品。個人的にはこの作品、下手に登場人物の感情に起伏をつけるよりももっと淡々とやり切ってしまった方がいいのではと感じてしまう役者さんや演出プランが多かったので、きっちりとやり切ってしまった有馬さんの演技がこの作品にはもっともマッチしていたのではないかと思います。
作品自体はフィクションということになっていますが、題材自体は731部隊のことや、帝銀事件など、史実に基づいて書かれたもの。帝銀事件731部隊とを関連付ける発想はいろいろな所で取り上げられていてそれほど新鮮だとは思いませんが、それを舞台の上で見せるということによって、小説やテレビのドキュメントでは決して描くことの出来ない緊迫感や、登場人物達の内面により迫った臨場感を生み出す事に成功しています。この作品、登場人物をどう位置づけるかにより、人によってかなり観たり考えたりする視点が変わってくる作品だと思います。私の場合は、特に人の事を救うために、人体実験で人を殺すということに対して疑う事を知らない彼らの欺瞞や、学問に対する歪んだまでにストイックな探究心。いざ自分達の命が危険に晒される立場に立った時、自分達の命が他の人間以上に値打ちがあるという思い込みや、ムシがいいとも思えてしまう恐怖の感情。医者という特殊な職業を扱ったからという部分もあるのでこの作品のように極端なことになるのでしょうけど、肥大化した自己愛のために他人を顧みることなく傷つけてしまうということは、私達の日常生活でも良く起こること。仮に同じ立場に置かれたら自分が彼らのようにならないと言い切れないと感じてしまう所がこの作品の怖さだと思いますし、そのように感じてしまうレベルまで演じきった役者さんの力なのだろうと思います。
かと言って、野木さんの脚本には自分の解釈を一方的に舞台で再現しようという押し付けがましさは、全くといっていい位ありません。もし、唯一あるとすれば、それは終盤の「裁かれるなら、歴史に裁かれたい」というセリフに込められた部分なのでしょうか。