五反田団「さようなら僕の小さな名声」@こまばアゴラ劇場

(あらすじ)
彼女と一緒に暮らす僕(前田司郎)は劇団の団長で戯曲家。自分では、その世界では結構知られた存在だと思っていても、インタビューに来た雑誌の編集にその存在そのものをボロクソに叩きのめされてしまう、所詮はその程度の存在。自尊心をズタズタにされた僕は部屋に戻ると、彼女は蛇に呑み込まれかけていたりする。そんな彼女から、何の脈絡もなくプレゼントを貰う。デパートの包装紙に包まれたそれを空けると、中からはなんと演劇界の芥川賞とも言われている岸田戯曲賞が。それも2つ。
マスコミを呼んで受賞のインタビューをした時に、口から出まかせで「そのうち1つを恵まれない人に寄付します」と言ってしまったことから、僕は団員と2人で本当に岸田賞を寄付するために、海外に行く事になってしまったのだった。
(感想)
脚本、演出を担当している前田さんについては、三島賞候補になって落選したり、岸田賞候補になって落選したりということ位しかよく分かりませんけど、多分自分のプライベートや夢のことをモチーフに書かれた作品なんだろうと思います。劇中に「蛇」の話しが頻繁に出ていましたけど、この辺はフロイトの心理学を意識したパロディなんだろうと思います。フロイトの夢診断だと確か「蛇」は男性器の象徴のはず。(こんなことを想い出すのは大学以来なので間違っていたらすみません。)そう考えると、蛇が彼女を呑み込む絵って結構エグいなと思います。夢って自分ではとっても面白いと思っていても、いざ他人に話すと、これ程ウケないものはないとは思うのですけど、この舞台では上手く脚色して面白い作品になっています。
そして、夢だと思われる部分だけではなくプライベートだと思える部分でもなかなか笑わせてくれます。特に、雑誌の編集者の「次回もまたチープな作品を作るんですか」とか「アートだとか偉そうなこと言ったって、金取ってるんでしょう」と言ったくだりや、取材で呼ばれたのでコーヒーだけで遠慮していたら、割り勘で相手にはハンバーグカレーを頼まれた上に、「払っておいて下さい」と言われて半額を渡されてさっさと帰られて、いざ支払いになったらハンバーグ分お金が足りないとか、そんな妙にリアルな描写には特に楽しませてもらいました。このやり取りなんか観ていても、言葉尻や文脈の一節を捉えて、それをズラしていくセンスや、深く掘り下げていく洞察力の素晴らしさには頭が下がってしまいます。日常と非日常を自由に往来するインスピレーションももちろんなんですけど、少なくても戯曲を書くという部分においては前田さんってもの凄い粘着質なんだろうなと思います。(お芝居の感想とは全く関係ありませんけど、観ている途中にこういう人とは絶対に口喧嘩したくないと思ってしまいました。)
一見ダラダラと演じているように見えますけど、お芝居も脚本も演出も、そういった粘着質な部分を反映してか、必要のないものをとことんまでそぎ落とし、自分達のスタイルを徹底的に深化させていて、完成度のかなり高い芝居に感じました。値段も1500円とものすごく安いですし、あとはこれで狭さと暑ささえひどくなければいうことなかったのですが…。舞台の内容とは別の部分で観ている時につらさを感じてしまい、もうちょっとで集中力が切れそうになってしまいました。本当はもっと大きな会場でやって欲しいですし、それだけの集客力のある劇団だとは思いますけど、このクラスの会場で最低限のセットでやるスタイルを特化して極めてしまっているので、もっと大きな会場でやるのは発声法から直さないといけないでしょうから、多分無理なんだろうなとも思います。とっても面白かったので次回も観に行きたいのですけど、そのためにはこの過酷な観劇環境に耐え続けなければならなのでしょう。