デス電所「残魂エンド摂氏零度」@ザ・スズナリ

(あらすじ)
未来の世界では人々の争いが絶えなかった。
現実の世界では国家は次々と滅んでいき、それを滅ぼした国家をテロリスト達が転覆しようと企んでいる。
一方ではネットの世界はますます進化が進み、とうとうアンドロイド型のハードが開発される。
親から、その女性の姿をしたアンドロイドを与えられた一人の少年は、彼女を介してしか世界とつながることが出来なくなってしまい、その結果、自分の家から一歩も外に出られなくなってしまう。
そんな時、政府の人間が彼の家にやってくる。今済んでいる家が政府とテロリストとの戦場になるので、即刻ここから避難しろという。
(感想)
前回、前々回の公演に行き続き今回で3度目の観劇になるデス電所の公演。過去2回ではどちらもパワフルな作品を2時間以上見せていただきましたが、今回の公演はどちらかといえば過去と比較すればおとなしめで、時間も1時間40分程度。公演後のトークで言われて納得したのですが、今回はいつも多めに取り入れているダンスも歌もシモネタ混じりの笑いも極力控えめにしたということと、キャストが劇団員のみだったということが大きかったようです。確かに入る余地があまり感じられない作品だったので、無理矢理詰め込まなかったのは正解だったと思います。いつもより、ぶっ飛んではじけたような感じこそしませんでしたけど、その分すっきりとして分かりやすい作品に仕上がったと思います。
この作品は、作・演出の竹内佑さんが「一時期ネットゲームにはまってしまった自分が抜け出すためのテキストのようなもののために書いた」と言っている通り、現実とネットとのあり方が大きなテーマになっている作品です。題材そのものについては、先日観たスロウライダーでもそれに近いテーマが取り上げられていたように、正直それ程目新しさは感じませんでした。ただ、観客との生身のコミュニケーションで成立している演劇に携わる方たちから見たら、その極にあるものとして、ネットでのコミュニケーションについては、一般人の私達以上に敏感なのかもしれません。
題材自体はありきたりなのかもしれませんが、実体験に基いているせいか、個人的にはかなり身近な問題として感じました。中間にハードを介してしか人とつながれず、ハードがなくなった途端どう人とコミュニケーションをしていいのかパニックになってしまったり、ネットで調べれば分かってしまうので自分で考えようとしなくなったりする部分などは、特に後者は自分でも思い当たるフシがあるだけに、結構ドキリとする場面も。全体的にそれをシニカルに描いているのですが、スピード感を残しながらも、あえて無機質な質感に仕上げたのが、個人的にはとてもいい感じです。特にダンスが控えめな分、和田俊輔さんの音楽がいつも以上に良かったですし、作品のイメージを膨らませるのに効果的でした。ただ、客観的に見たら、人と健全にコミュニケーションができる人ほど作品に共感してもらえない危険性を感じますが。
惜しいなと感じる部分や、もうちょっと詰めきって欲しかったなと感じる部分が若干ありましたが(特に竹内さんの出演シーン周辺)、全体的には引き締まって面白い作品だったと思います。個人的には、前々回が好みで、前回が今一つしっくりこなかったので、今回の出来で今後の公演も観るか見送るかの判断材料にしようかと考えていたのですが、今後も追いかけてみようかと思わせるだけの価値のある公演でした。特に、次回公演は青山円形劇場だそうなので、広くなるステージで暴れまわる姿を見せて欲しいものです。