クロムモリブデン「スチュワーデスデス」@駅前劇場

(あらすじ)
「悩みから開放してあげる」と言って女性を殺した殺人鬼の男が、死刑を宣告された瞬間昏睡状態になってしまった。そのせいで刑の執行が出来なくなってしまった遺族は殺し屋に男の暗殺を依頼する。ただ、かれが意識のないうちに苦しまずに死ぬのが許せない遺族は男を誘拐してきて、彼の目を覚まそうとするのだが…。
(感想)
前回公演「マトリョーシカ地獄」が初見で、2度目の観劇になるクロムモリブデン。前回公演でも感じたのですが、細かい部分では正直色々とアラがあったり、ツッコミたくなってしまう部分を感じてしまうのですが、そんな細かいことは全てぶち壊すといわんばかりのパワーでそんな細かいマイナスさえもプラスに変えていく強力な作品のエネルギーには脱帽のひとこと。そんな多少の無茶を成立させてしまうのも、役者さんの力と、その持ち味を生かし切った演出や脚本、音楽、照明といった作品作りの巧みさがあるからでしょう。同じような展開が繰り返されたせいか、中盤ちょっと作品がダレかける部分もありましたが、それを切り抜けてクライマックスに持っていくあたりはさすが。約90分という時間も、仮にこの内容で2時間の作品を作ったらここまで濃い密度の作品にはならなかったと思うので、ちょうど良かったのかなと思います。
役者さんは皆さんそれぞれとても魅力的。個人的には作・演出目当てで行く事が多いのですが、この劇団については役者さんの演技だけでも観る価値があると感じる魅力があります。コスプレ姿で奮闘する板倉チヒロさん、奥田ワレタさん、葛木英さんを始めとして皆さん良かったのですが、個人的に気に入ったのが殺人鬼役の森下亮さん。柔和でひ弱な青年が、徐々に殺人鬼の顔を見せていくのですが、その少しずつ変貌していく流れがとても自然で、観ていて背中がゾクゾクしました。人の心にある痛めつけたいという気持ちと痛めつけられたいという気持ち、その弱い所を突く怪物という設定も上手くいっていています。重くシリアスなテーマをテーマを潜ませてながらも、その重みに沈むことなくスピード感のある笑いを作り出していっているあたりが、馬鹿馬鹿しいだけ一辺倒ではない、この劇団の非凡なバランス感覚の良さなのだろうと思います。
そのお陰で全体的にも良くまとまっていて、いい作品だとは思うのですが、ただ、今回森下さん演じる殺人鬼が良かっただけに、個人的にはコミカルさとシリアスさとのバランス加減がもうシリアスさの側に振り切れてしまっても良かったのでは、という気がしました。あえて深刻にならないように作品作りをしているおかげで楽しんで観られるという部分も多いのですが、例えばシリアスにもっと掘り下げてもいいのでは?と感じるような場面にまで、軽い笑いでその場を茶化す必要があるのだろうか、と疑問に感じる部分もありました。作品全体にシリアスになりすぎることへの「照れ」のようなものを感じましたし、旺盛なサービス精神がお客さんの期待に答えようとするあまり、逆に自己規制のようなものになっているのだとしたら、いい部分が多かっただけに、まだまだ面白い作品になり得たのでは、とちょっとだけ惜しまれる部分でもあります。