あひるなんちゃら「未来ルルルルルル」@王子小劇場

(あらすじ)
今から一万年後の荒野。目覚めた3人の男達。彼らは冷凍睡眠で眠っていて、目覚めた時にはもう未来だった。
未来なんだから、眠る前ときっとどこか違うのだろうと思ったら、そんなに目新しいできこともなく、拍子抜けする3人。ただ、普通の人間だと思っていた人達が、車だったりコンピューターだったり、ロボットだったりちょっとヘン。
けど彼らは未来で何をするというアテもなく、かと言って帰るあてもない。おまけにこの世界に住んでいる人類はもうそろそろ滅んでしまうらしい。
(感想)
70分という時間といい、まるで紙芝居のようなセットといい、取っ付きやすくて気軽に観られる舞台。普通にやり取りをしているように見えてそれが微妙にかみ合っていなかったり、起こっていることは結構滅茶苦茶で深刻なのですが、何事もないかのようにさらりと流していきます。車やロボットやコンピューターを素の人間がそのまま演じることも含めて、一見手抜きなように見えて、ここまで質感がライトな感覚の作品を作り上げるというのは大したものだと思います。前回拝見した時(前々回公演の「屋上のオフィス」)にも感じたのですが、作風は軽いけど作品のメソッドそのものは思いの他しっかりしているように見受けられます。ある程度面白い題材があって、根津茂尚さんと黒岩美佳さんという魅力的な役者さんが居れば、平均以上の作品はできるのではという信頼感は感じます。今回にしても登場人物達同様、大きく感情が揺さぶられる場面は全くないのですが、観ている最中、まるでちょうどいい感じのヌルさのお湯にずっと浸かっているようで居心地の良さを感じました。
役者さんも強烈なインパクトこそはありませんが、ポイントポイントはしっかり押さえていて、なかなか器用な人が揃っていたなという印象。個人的には、四方八方からいじめられ抜いた未来から来た男の一人・オオタ役の渡辺裕也さんがツボ。そこらじゅうから来るボケや攻撃を上手くひろいまくっていて、一番虐げられているように見えて実は一番おいしい役だったのでは、と思います。
会話の面白さと独特なぬるい雰囲気とで、個人的には好きな作風ですけど、ちょっと難があるとすると、ライトさに徹したために、舞台を観終わったあとに印象に残りにくくなってしまうこと。「他にちょっと予定がないから行ってみるか」という気分にはなる舞台ですが、他の予定や舞台を押しのけてまで観に行こうという強烈な自己主張が足りないのが難ですし、それが欲しかったように感じます。