ひょっとこ乱舞「トラビシャ」@こまばアゴラ劇場

(あらすじ)
ピンチさんの目の前には倒れたまま動かなくなった少女がいる。彼女はアカネという名前のピンチさんの娘で、ピンチさんがクビをしめてたせいで死んでしまってから、しばらく時間が経っている。
この状況を何とかしようと、彼女は海外に行った役立たずの夫の替わりに、イギリスに出張中の夫の兄のダメ雄に電話を掛けるのだが・・・。
(感想)
演じている役者さんとケイタイでやり取りし、その結果をモニターに写しだしたり、ラジオを使ってケイタイの相手のやり取りや、舞台にいない役者さん達とのやり取りに使ったりと実験的な精神と遊び心に満ち溢れた作品で、観ているだけでなく参加することもできたということもあって、まずは純粋にとても楽しめました。私は家にケイタイを置いてきてしまったのでケイタイのやり取りには参加できずとても残念だったのですが、もし時間があったらそれだけでもう一回行ってみたいと思った位です。
私の行った日はお客さんのノリもとってもよく、何だか奇妙な一体感があったのですが、この一体感を作り出すというのは簡単そうで実は結構難しいこと。そういう気にさせてくれるのは、スタッフワークの良さ、演出の巧みさ、役者さんの力量が揃ってこそだと思います。
この作品、実験的なアイディアばかりが目立ちますが、作品の構造もとても面白かったです。おそらくなのですが、この作品は二重の円のような仕組みになっていて、円の内側が劇の世界で外側が観客の世界になっていると思います。それを自由自在に行き来するナジミとイチゲンという劇中の登場人物ともただの傍観者ともいえる2人の存在によって、その2つ円の境界を引いたり壊したりすることによって、観ている途中にまるで劇場全体が作品の舞台であるかのような気分にさせてくれます。
演出や組立ての巧みさだけでなく、役者さんの演技も、動きの切れのよさと躍動感があって、とても良かったです。正直に白状すると今回の公演はチョウソンハさん目当てに行ったのですが、その他にも魅力的な役者さんがとても多くて、今考えると自分が知らなかっただけでホントに失礼だと思いますが、観ている最中はそのレベルの高さにびっくりしてしまいました。
ただ、気になったのが、今回は実験的な要素が強かったとはいえ、前述した二重の円の内側の話の部分がやや弱いと感じたこと。仮に実験的な部分がなかったらと考えるとどうだろうかと感じてしまった部分もあったので、もうひとヒネリ欲しかったように感じます。そのせいかどうかは分かりませんが、役者さんの能力をフルに使いきっていないなという印象を受けました。魅力的な役者さんが揃っていただけに、彼らがギリギリまで追い込まれた所でどういう演技をするのかが観てみたい気がしました。
今回始めて観に行ったのですが、主宰の広田淳一さんが、ラジオの副音声の役者さんからの指示で、徹底的に客にいじられるアフタートークが爆笑ものだったということもありますが、今後も引き続きこの劇団の作品を観てみたいと思わせるだけの舞台だったと思いますし、その時は役者さん達の演技をこの作品以上にじっくりと観せてもらいたいものです。