サンプル「カロリーの消費」@三鷹芸術文化センター 星のホール

(あらすじ)
ある夫妻が、久しぶりに入院している母親の看病に病院を訪れる。ところが目の前で、介護士の男が母親に性的いたずらをしているところを目撃してしまう。2人は激怒するが、何故か病院を変えようとはしない。
その次の日、その母親がベットごと行方不明になったという連絡を受ける。どうやら昨日の介護士が連れ去ったらしい。その捜査のために刑事が訪れる。刑事は2人と連絡を取りたいので、事件が解決するまではどちらか家にいて欲しいと要求する。しかし、2人は、なにかと理由をつけてそれを拒否する。そこで、どういう訳かその刑事が、彼等の替わりに2人の家に住んで連絡を待っていると言い出したことから・・・。
(感想)
青年団の松井周さんが旗上げし、今回から「青年団リンク」が取れた劇団、サンプルの公演。今まで2回、松井さんが脚本を書かれた作品を拝見させていただいたのですが、どちらも、どこか常識が壊れた人間をこれ以上にない位誠実に描いた作品で、今回もとても楽しみにしていました。
三鷹の会場は、過去に観たほとんどの劇団の作品でも、会場の広さと高さに大苦戦しているのですが、今回は客席の傾斜を高めにして、舞台の後方を仕切り、奥行きを捨てて高さを生かす方向での舞台づくり。それによって、縦横(特に縦)の動きを上手く利用することによって会場の使いにくさを上手く克服しています。
高野しのぶさんのサイトから松井周さんのインタビュー記事を見つけて読んでみたのですが、「老人ホームにいた母親が介護士と脱走して、息子夫婦と刑事がそれを追いかける単純な話を、ロードムービーみたいに描きたいと思ったんです。」というのを読んでなるほどと思いました。前回の「シフト」では上から釣り下がっているものを取って作中で使うことによって、無造作に「モノ」が消費されるさまをシニカルに描いていましたが、今回は「モノ」だけでは飽きたらず、「場所」までも無造作に消費されていきます。その不特定な場所を移動し、人に出合ったりすれ違ったりするさまは確かにロードムービー風といえばその通りだと思います。
ただ、通常のロードムービーと違うのは、登場人物の一人一人がちょっとずつヘンな人物であること。その単独でも立派におかしな登場人物が、別のおかしな人物と出合ってしまったために、まるで掛け算のようにヘンな部分が増大して起こってしまう、予測不可能な出来事が時にはなんともおかしく、そして時には何とも怖かったです。あえてだとは思うのですが、彼等の行動の理屈で分かるという部分を極力排除することによって生まれる、彼等の行動の意味のない空虚さは、登場人物に対する共感を奪い、まるで特異な行動をする人間サンプル達を会場から観察しているような気分になります。それも、これも、松井さんの世界を舞台上に再現する役者人がしっかりしているからできること。個人的にはもう松井作品には欠かせないと思っている、辻美奈子さん、古舘寛治さん、古屋隆太さんといった青年団の役者さんたちに、米村亮太郎さん、山崎ルキノさん、山中隆次郎さんといった客演さんたちとが上手い具合に融合されていて、過去の松井さんの作品とは、また一味違った感触の仕上がりになっていました。
正直に白状すると、訳が分からない人達が訳の分からないことをやってて、それで結局何が言いたいんだ、といいたくなってしまった部分も多々あったのですが、それでも観終わった後には「何だか分かんないけどとんでもないものを観てしまった」という気分にはさせてくれましたし、この作品はきっと訳の分かんないままでいいのだと、根拠もなく納得させてくれるだけの力を持った作品だと思います。

・松井周さんのインタビュー記事
http://eigageijutsu.com/article/53154649.html