イキウメ「散歩する侵略者」@青山円形劇場

(あらすじ―劇団のサイトより引用)
日本海に面した小さな港町。
地元の夏祭りが終わると男は性格が一変していた。
医師の診断は脳の障害という曖昧なものだった。

彼の妻はすっかり人格の変わった夫に戸惑いを感じつつ、世話をする。
そして、結婚以来これほど自分が必要とされていたことは無かったことに気づく。
彼女は密かに幸福を感じていた。

男は、街を徘徊し、誰かと出会い、何かを学習する。
一方、彼と出会った人々は何かを失ったようだった。
そして、徐々に町に奇病が流行りだす。
そんなある日、男は妻に打ち明ける・・・。

(感想)
2005年に上演した、劇団の代表作ともいえる作品の再演。個人的にとても好きなレパートリーで、初演こそ行けなかったのですが、去年G-upのプロデュース公演も観に行きましたし、初演の上演台本も読んだことがあります。脚本を読んだ限り、今回の円形劇場という会場を抽象的な形で舞台を作ればかなりハマリそうな感じがしたので、もしかしたら、今回の会場が決まった時点でこの作品の再演のことを意識していたのかもしれません。そんな訳で、個人的にはかなり期待していましたし、面白いのは当たり前で、あとそれにどこまでプラスアルファできるのだろうという気持ちで観に行ったのですが、期待通り、いや期待以上のステージでした。
「ことば」ではなくそのことばの「概念」を奪う宇宙人という設定の秀逸さ。そんな設定が最初は常識離れで馬鹿馬鹿しい思っていたにも関わらず、いつの間にか日常が切り崩される感触。「見える」戦争の裏側にある、もっと大きな「見えない」侵略に気が付かずに過ごす人々の侵略される側の滑稽さと、侵略する側の不気味さ。この作品の魅力というのは他にも色々あるかとは思いますが、まずこの作品の面白さの前提にあるのが、読みものとしても立派に面白く読めてしまう脚本にあるのは間違いないかと思います。初演の脚本でも充分に面白いかと思いますが、今回の再演では登場人物のやり取りや、行動の動機付けがものが分かりやすくなっています。作品の不自然さが減ったおかげで、作品のざらついた部分が少なくなり、滑らかになって観やすくなった印象を受けます。
ただ流れが良くなった印象を受けたのは、脚本だけでなく、巧みに緩急をつけた演出も大きかったと思います。私が観た今までのイキウメが、どちらかといえば一回緊迫するシーンに入ったら、クライマックスめでじわじわと押し切りながら緊迫感をピークにもっていく作品が多かったように感じましたが、今回は緊迫する場面とコミカルな緩める場面とを使い分けながらいつの間にか緊張がピークになっていく、という手法を使っていたように感じます。それによってややもすると途中まで切り離された感のある夫婦と侵略者の話と、フリーターと戦争の話という2つの話がスムーズにつながっていったと思います。
脚本・演出の面白さを引き出した、役者さんの出来もなかなかで、この作品をワンランク上の作品に持ち上げていました。特に妻役の岩本幸子さんはあてがきではないかと思ってしまうアタリ役。その他、客演の男性陣3人(安井順平さん、瀧川英次さん、日下部そうさん)が三人三様の演技でそれぞれの持ち味を充分に発揮していました。ただ、ホントに個人的なのですが内田慈さんはもっと観たかったという気が・・・。
作品を観ながら「もしこの概念がなくなったらどうなるのだろうか、本当にこの作品の通りに行くのだろうか?」といった疑問を感じる部分もあったので、パズルのようにパーツがあるべき場所にきちんと収まらないと嫌だという人にはややフラストレーションを感じるきらいはあるのかと思います(私自身もそういう傾向があるので)。それでもこういう思考実験の場を作っただけでも充分に素晴らしいと思いますし、最後は結末が分かっていながらも感動してしまいました。今回のような作品を作り続けていってくれるのなら、この劇団を今後も可能な限り追いかけていきたいと思います。