innerchild「アメノクニ/ヤマトブミ」@吉祥寺シアター

(あらすじ―CoRichより引用)
過去・現在・未来を同時通訳的にイメージした架空の世界を描く「〈連作〉アメノクニ」
ヤスマールの手によって完成した国史(神話)「フルコトフミ」。切られた戦争の火蓋。しかし、「アメノクニ」の巨大な力によって戦争が終結した時、裁かれるべきこの国は、新国家に相応しい新たな「神話」の編纂を迫られた。
 日本神話の世界観を通じて「日本人の心性」を探ってきたinnerchildが今度は「神話を書いた側」に視点を移し、神話という物語の新たな深遠に迫る。
 「神話」は決して「神」のみずから書かれた物ではない。そう…全ての「物語」は物語るため、「人」よって創られる――

(感想)
一月に同劇団で上演された「アメノクニ/フルコトフミ」との連作に当たる作品です。それぞれ独立した作品とは言っても、完全な連作なので、前作のあらすじや流れが分かっていた方がより楽しめるとは思います。ただ、そうでなくても見応えはあり。特に、歴史物や群像劇が好きな人(私みたいに)にはたまらない作品です。
舞台は、ただでさえ広いという印象のある吉祥寺シアターの一列目を潰した広大なセットをフルに活用しています。会話のシーンが多いのでシーンによっては広い空間がスカスカに感じてしまいましたが、基本的にはその空間を上手く使いこなして、それに見合ったスケールの大きな作品を作り上げています。前作は日本の史実の様々な部分をつぎはぎに再構成して、作品の世界を広げることに腐心していましたが、今回はそこで出来上がった作品世界を生かしつつ、戦後の日本と日本書紀編纂の物語との組み合わせに作品のモデルを絞って再構築しているので、観ていてすっきりしてわかりやすかったです。史実を拠りどころにしながらもそれに依存することなく、最後は独自の物語に着地し切ったことも好感が持てました。
役者陣も、前作のコアメンバーを残しながら、客演陣をパワーアップした印象。ヤスマールを演じた、遠藤健太郎さんも前回は苦悩しながらも歴史の奔流に流されるだけの役どころだったので、ひ弱な印象が先に立ってしまっていたのですが、本作では嘆きながらも自分なりに神話や歴史に立ち向かってゆく力強さがでて、その分演技にも厚みが出たように感じます。勝者によって都合よく改竄され葬り去られる「神話」。書かれたのは為政者の都合でも、それを読み解いて自分達の「神話」や「物語」を紡いでいくのは私達以外の何者でもない。ヤスマールの歩みを観ていると自分なりにそんなことを感じました。それと同時に、国家や権力や歴史の流れといった個人ではどうしようもない位の奔流に巻き込まれた時、一体個人はどんなことが出来るのだろうかって言う事とかも考えさせてくれました。
前作も随分と壮大な作品だと思いましたけど、それが大いなる前振りに過ぎないのではと感じてしまう位、スケールの大きな作品でしたし、充分に満足させてもらいました。

前回公演の感想→id:ike3:20070108