演劇集団キャラメルボックス「猫と針」@俳優座劇場

(あらすじ)

「人はその場にいない人の話をする」

高校時代の級友の葬式で久しぶりに一同に会した元映研の男女5人。彼等は亡くなった級友の話をする。人にとても恨みを買うような人間には見えなかったのに殺されるなんて…。
そんな話をしていた時、ふと出てきた高校時代の文化祭で映画のフィルムが無くなった話し。あれは一体誰のせいだったのだろうか?
葬式で再会することになった5人だが、実は偶然にも彼等の中の1人で映画監督になったタカハシという女性に、喪服姿で映画のエキストラに参加するように誘われていた。彼等の中の一人、タナカはこれは偶然の出来事ではないと彼女のことを疑うのだが…。
(感想)
キャラメルボックスの公演とはいっても、脚本は超売れっ子作家で演劇を題材とした作品を出されている恩田陸さんで、演出は扉座横内謙介さん。という訳ではないと思いますが、いつもの加藤昌史さんの前説もなく、舞台も黒と白で統一されたシックな雰囲気でいつもとは全く毛色の違った作品です。チェロの生演奏も作品のシックな感じを作り出のに効果的で、そんな舞台で繰り広げられたのは、葬式を舞台に様々な話が錯綜してゆく会話劇です。基本的にミステリータッチで進んでゆくのですが、先に進めば進むほど、謎が増え、事実がどこへも定まらずゆらゆらしていきます。その中で行われる言葉の応酬はスリリングですし、横内さんの演出も観る角度や、役者さんの細かいしぐさまで細かい部分に工夫が行き届いていますし、役者さんもタカハシ役の前田綾さんを始めとして、皆さんがんばっているなという印象を受けます。多分、恩田さんの小説のファンにはたまらないだろうと思いますし、こんな題材の小説が出たら間違いなく買うだろうなあって思います。
ただ舞台としてみた場合、横内さんや役者さん達のがんばりにも関わらず、作品が予想以上に上手く転がっていかない印象が。おそらく、これは恩田さんの脚本が舞台で上演するには問題を抱えているからなのだと思います。
その一つは動きの問題。いくら会話劇だとはいっても動きが少なすぎて、会話だけでは作品にメリハリをつけるのに限界があって、観ていてリズムの単調さがぬぐえなかったのではないでしょうか?
もう一つは、言葉の問題。一見ナチュラルな現代口語なのですが、書き言葉とは違って、会話の途中に間が入ったり、話の途中で腰を折ったり、登場人物が2ヶ所以上で会話をしていたりといった場面がこの作品ではほとんど登場しません。そのため、なまじセリフがきちんと整っているだけに、逆に会話がとても不自然に感じてしまうことが多かったです。一つ一つかみ砕いていくといいセリフが多いとは思うのですが…。
恩田さんの初の戯曲で、おまけに演じるのがキャラメルボックスということで、かなり楽しみにはしていましたし、実際に面白かった部分も結構ありました。ただ、「これだけ面白くなる可能性のある素材があるのだから、もう少しやりようがなかったのか」というのが観終わった後の正直な感想です。いくら売れっ子作家とは言っても舞台作品は始めてなのですから、頭で考えているイメージと実際に舞台で上演されることとの間にある程度のギャップが出てくるのはいたし方がないと思います。しかしその溝を埋めるアドバイスなり対策なりがきちんと出来ていたとは、今回の公演を観た限りでは思えませんでした。もっと面白くなる可能性のある戯曲を問題点の多いまま上演した点について、今回に限っては脚本を依頼した劇団サイドにも大きな問題があると思います。