少年王者舘「シフォン」@ザ・スズナリ

おそらくいつも観ている人達にとってはいつもの王者舘の作品なのでしょう。ただ、始めてみる自分にとってはとても新鮮な驚きを感じた舞台でした。
ストーリーは一見ありそうでない作品。作中、再三「途中から始まり、始まる前に終ってしまう話」というセリフが使われていましたが、このセリフにもっとも象徴されるように「物語というものがない」というよりも「ギリギリの所で故意に物語を放棄している」そんな感じがしました。
そして、物語の代わりに目の前で繰り広げられるのは、正直何なのかはっきりとは分からない、言葉と音と動きの洪水のような世界。すごい言語感覚と柔らかい発想で書かれた脚本だと思いますが、その不可解さは多分演出が天野天街さん以外でしたら脚本を見た瞬間途方にくれるんじゃないでしょうか。というよりは、もしかしたら天野さんの演出という前提で書かれた作品なのかもしれません。繰り返し同じ場面をループさせながら、ちょっとずつずれてゆき、いつの間にか全く別の場面に変わっていくシーンなんか、内容を考えるとそれほど作品に厚みを与えている訳ではなく、上手く言いくるめられて時間を使わされたという気がしないこともないのですが、それでも言葉や動きのリズムがもの凄く心地いいので、観ていてとても面白かったです。
その他にもいろいろと驚かされたシーンが次々といった感じだったのですが、個人的に特に面白いなあと思ったのが映像を使ったギミックの数々。特にチカチカと細かく明滅する映像を繰り返し、その中で役者さん達を動かす事によって動きをまるでコマ送りのように見せるシーンは、「こういうやり方もあるのか!」と観ている途中に思わず唸りそうになりました。
実は私自身一つでも多くの作品に触れたいということもあって、同じ作品は滅多に観ないのですが、この作品については、1回目を観終わったあとに居てもたってもいられなくなって、結局2回観ました。最初は「何だか訳がわからないけど面白い、どうしてこんなに面白いの?」って思い、2度目は「結局訳が分からないということが分かったけど、それでもやっぱり面白い」って思いました。演劇を観ていると、その時々や作品によって喜怒哀楽さまざまな感情を抱きますが、舞台を観ていてこんなに「ワクワクする」と感じたのは、本当に久しぶりでした。