富士ロック「恋愛」@王子小劇場

メタリック農家の葛木英さんとクロムモリブデン板倉チヒロさんとによる、恋愛をテーマにした20分×4本のオムニバス風の舞台。役者さんも脚本も何気に豪華でこれだけ材料が揃えば面白くなるだろうと思いつつ、一見作風が全く異なる4人の作品をお2人がどう捌くのか、それに興味を引かれて行ってみることにしました。
正直まとまっていると言いがたい部分もありましたが、その分バラエティに富んだ演技を見せてくれましたし、脚本も1本1本はきっちり出来ていましたし、なかなか面白かったです。ただ、今回は脚本的にどちらかというと葛木さん寄りのものが多く、葛木さんがやりたい放題やっている所に、板倉さんが引きずられながらも、器用についていっている、という図式が多く、2人芝居にしてはバランスが悪かったように感じたのが残念でした。個人的には1本目の池田鉄洋さんの作品のようにぶっ飛んだ板倉さんがもっと見たかったです。
試み自体はとても良かったと思いますので、もう少しお笑いを多めにして次回も是非やって欲しいです。
幕間の漫画もどうしようもないくだらなさが何ともいえず、おまけとは思えない面白さ。ただ、結果的にただでさえ一作ごとにバラバラの作品なのに、幕間によって更にまとまりのない舞台になってしまったように感じて、観ていてもったいないなという気がしました。
・一本目「たちはざかるもの」(脚本:池田鉄洋
(あらすじ)
居酒屋で腹の具合が悪くなり、トイレに駆け込んだ男。しかし一つしかないトイレはいつまで経っても使用中。男はピンチに陥る。やっとドアが空いたかと思ったら、そこからでてきたのは酔っ払っている昔別れた女で・・・。
(感想)
池田さんの作品とお2人とはかなり相性がいいだろうと思っていたのですが、予想通り、というより予想以上のでき。トイレという舞台設定にある意味ふさわしいシモネタの数々と、障害がないと愛が燃え上がらないという面倒くさい女とというややこしい役柄を、真正面から演じた葛木さんの熱演が光った作品。パシリ、歯軋り、寝言(?)等の様々な苦難に挫けそうになりながらも、もともと弱いのに、更にほれた男の弱みを見せ付ける板倉さんもグッド。この作品に限ると2人のバランスが良かったです。ただ、一番盛り上がった作品だっただけに、全体のバランスを考えるとこれを頭にもってきたのは勿体なかったように思います。
・二本目「月とルチオ」(脚本:山中隆次郎)
(あらすじ)
しばらく月に行っていて、16年ぶりに地球に戻ることになったルチオ。彼は、幼馴染の女性と、久ぶりに戻ってくることを話している。昔の想い出話しや、近況について語り合う2人。まるで2人は時間を超えて話をしているようだ。
(感想)
とことん書き込むという印象があるスロウライダーの山中さんが果たして20分でどんな作品を書くのだろうかと思っていたのですが、ワンアイディアの切れ味が鋭いSFタッチの作品でした。
始めは何でもないと思っていた風景が、観ているうちにずれて焦点がぼやけてきて、また像を結んではっきりしてきたと思っていたら、最初と全く違った絵になってくるのは見事です。ただ、そのシナリオの鮮やかさが舞台で充分に発揮されたか、というと思った程でもないというのが正直な所です。前の池田さんの脚本作品が良かっただけにちょっと残念でした。
・三本目「月に一度だけ〜Only Once a Month〜」(脚本:渡邊一功)
(あらすじ)
月に一回、月末の金曜日の夜だけ出会う男女。2人はお互いの肉体だけが目当てで、付き合って2年ほど経つが、相手の本名もケイタイ以外の連絡先も知らない。
けど、そんな関係にも終わりが。男の方が会社の後輩と結婚するのだという。
(感想)
お互い遊びの関係だと思っていたら、男女間の温度差が微妙に異なる。一見同じベクトルを向いているように見えて、実は微妙にすれ違っている、そんな気持ちのズレをそれぞれの側から描かせたら渡邊さんという方は本当に上手いと思います。
ただ、渡邊さんの所属するリュカ.の本公演と違っていたのは、男女の関係が妙に生々しい点。個人的にはそれによって安っぽいテレビドラマのような作りになってしまったような印象を受けて作品的には正解ではなかったと思います。それでも、葛木さんの体を張った演技はとってもセクシーでしたし、抑え目の板倉さんの演技が見れたという点は良かったかなと思います。
・四本目「泡―ユニットバスの人魚―」(脚本:葛木英)
(あらすじ)
風呂に入っている男。男には彼女がいて、女は男のために昼も夜も働いている。働いていない男はこの状況をなんとかしたいのだが、どうすることも出来ない。なぜなら彼は人間ではなく・・・。
(感想)
基本的には人魚役の板倉さんの出オチ勝負の作品。やられてみたらそうだろうとは思えるのですが、板倉さんの人魚の姿とコミカルな演技には楽しませてもらいました。出オチのあとも、ちょっとありがちすぎるというきらいはありましたけど、男女のちょっと歪な愛が手堅く描かれていて、なかなか面白かったです。

・幕間映像「フェロえもん」(脚本:登米祐一)