KAKUTA「神様の夜―ProgramC&D」@恵比寿ギャラリーSite

川上弘美さんの小説「神様」に収録されている9つの作品を4つのプログラムに分けてで上演した朗読劇。私が行ったのは公演期間後半に当たるプログラムで、上演したのは以下の作品になります。

ProgramC 魅せられる
・春立つ
「猫屋」に久しぶりに来ている。
「猫屋」は、カナエさんというおばあさんが一人でやっている飲み屋で、「猫屋」という名前の通り、猫が六匹ほども飼われている。

・離さない
旅先で妙なものを手に入れた、とエノモトさんが言ってきたのが二ヶ月ほど前だった。

ProgramD さようなら
・花野
すすきやかるかやの繁る秋の野原を歩いていると、背中から声をかけられた。
この時刻でこの場所ならばたぶんそうだと思っていたが、振り向くと、やはり叔父が立っていた。
五年前に死んだ叔父である。

・草上の昼食
くまにさそわれて、ひさしぶりに散歩に出る。
くまにはあいかわらず名前がない。 

公演が終った後に全ての作品を読み返してみて、そのあとにこの感想を書いているのですが、まずは作品そのものがとても素晴らしい。独特な物語もそうなのですが、こうやって朗読という形で作品に接すると、言葉のもつ質感や響きが心地いい作品だなと本当に思います。特に、同じ言葉を繰り返し使っている部分のリズムがとても面白いです。
ただ、作品そのものが素晴らしいとはいっても、ただの朗読ではなく、作中に小説の話をつなげるオリジナルのストーリーを入れながら、かつ小説本編の方も作品の読み手と演じ手を分けたり、時には読み手と演じ手の境界を壊しながらの朗読劇で、オリジナルの舞台劇以上ともいえる凝った作りになっています。私の行った日はあいにくの台風が上陸した日で大雨だったのですが、ギャラリーに川上さんの作品世界の魅力を存分に再現しながら、それを更に膨らませた作品で、その時間だけ外の天気のこともすっかり忘れて、まるで別の場所に来たように楽しむ事ができました。作品の出来そのものもそうなのですが、観客が作品に入り込んで行きやすいようにするすみずみまで行き届いた空間作りも素晴らしく、超満員にも関わらず、とてもいい気分で作品を観ることができました。
役者さん達のリーディングや演技も文句なし。桑原裕子さんや川本裕之さん、佐藤滋さんを始めとした劇団メンバーももちろんですが、ゲストの役者さんの存在がものすごく効果的。特に、麻生美代子さん、志賀廣太郎さんのベテラン2人の味わいが、作品に確実に深みを与えてくれています。
その他に素晴らしいと思ったのが、作品と作品とをつなげるオリジナルの作品の出来のよさ。朗読劇ということを差し引いても、川上さんの小説の文章の中に入って不自然さを感じさせないばかりか、作品と均衡できる桑原さんの筆力というのは並外れています。役者やストーリーテラーとしては凄いとは思っていましたけど、今回は桑原さんの言葉を綴る力のすごさには本当に驚かされました。
今回の公演は私自身本当に素晴らしいと思いましたが、ただ一つ残念だったのが、日程の関係で前半のプラグラムを観に行く事が出来なかったこと。観終わった後に、その事が「心の底から悔しい!」、そう思いました。