ポツドール「人間♥失格」@三鷹芸術文化センター 星のホール

(あらすじ)
フリーターのイサムはバイトを無断でサボり、朝からテレクラで女をナンパしようとしているどうしようもない男。テレクラで捕まえた女とエッチ出来ると思っていたら、相手の女にはすっぽかされたあげく、使った覚えのないアダルトサイトの利用料を請求されたり、借金を踏み倒そうとした友人に捕まり、その日のうちに借金を返さざるを得なくなったりして、追い込まれてしまう。そこで、イサムはいつものように過保護な母親に電話であれこれと嘘をついて金を工面したのだったが・・・。
太宰に憧れた凡人達の文学のカケラもない物語。
(感想)
タイトルの通り、太宰治の「人間失格」をモチーフにした作品。普通の劇団の公演でしたら、「人間」と「失格」の間にあるハートマークに可愛らしさを感じてしまうのですが、この劇団に限っては「♥」の分だけものすごいえげつなさや、何ともいえないエグさを感じてしまったのは、私だけではないと思います。
テレクラで引っ掛けた女には詐欺に引っかかり、借金を踏み倒そうとした友人には見苦しい言い訳のオンパレード、泣きを入れるのは別れた彼女と、よくもまあここまでベタなダメ男が描けるものだと思います。ただ、男のダメっぷりはベタなのですがこれはあくまでも男の安っぽさを強調するためのもの。話しの組立ては緻密ですし、自分の事を太宰に重ねあわせる、絵に描いたような最低男が、ハタから見たら自業自得の挙句泥沼にはまってしまう姿が、ここまでする必要がないだろうというくらい丁寧に描かれているので、作品そのものはチープな感じがしません。一見、イサムの逃げ道になっている過保護な母親の存在が、作品の上でゆるい安全弁に見えるのですが、これこそが曲者。ここに逃げ道がある限り、本人が太宰のように貧乏で不幸で死にたいと思っていても、追い込まれて太宰のように腹をくくって生きることも死ぬ事もことも決してできない。この辺は「人間失格」というテキストを上手く読み込んでいるなと思いましたし、作品の組立てがとても上手いなと思いました。
イサムのぬるま湯のようなダメっぷりから見えるえげつなさはある意味「ぬるい」えげつなさです。それとは対称的な「洒落にならない」えげつなさを描いたのは、ラスト前の「もしイサムが友人に借金を返済できたら」という仮定での展開。(本編は友人がパチンコに行ってる間にサイトの集金人を名乗る男が来て、母親からせびった金を持っていかれてしまいます)女を2人で犯し、その後やって来た男との暴力シーンは、あまりにナマナマしくリアルで、バイオレンスな展開には比較的耐性が強いと思っていた自分にもかなり衝撃的でした。ここまでやったからこその作品のインパクトだとは思いますが、一方で「ここまで役者さんに負荷をかけてまでやる必要があったのかな」という気分も相半ばし、観終わった後に何ともいいしれない複雑な気分になりました。
でも、肉体的な部分はもちろんなのですけど、自分の内面の嫌な部分や中途半端な部分と向かいあい続けて、それを上演時間中持続させるエネルギーの持続力と、そこから生み出されるリアルな描写の凄さには本当に驚かされます。