劇団、本谷有希子「ファイナルファンタジックスーパーノーフラット」@吉祥寺シアター

(あらすじ)
経営難で誰も近寄らなくなった遊園地。そこで服装や髪型までそっくり同じ姿に扮した女性達。彼女達は、その遊園地の経営者のオタク少年のために、亡くなったある女性を演じているのだった。そこに彼女達の中の1人の女性を連れ戻すために、彼女の夫と名乗る男がやって来たことから・・・。
(感想)
こうやって感想を書いている今でも、正直どう書いていいのかものすごく悩んでいます。思いついたままに片っ端から書いてみると、

1)吉祥寺シアターという会場が上手く使いこなせているとは言い難い。所々で空間がスカスカになっている印象を受けた。
2)前半がちょっと演技が上滑りしているように感じた。1)と重なるが、セリフが聞き取りにくいシーンがあり、舞台のスペースをきちんと計算にいれて作品作りをしたのかやや疑問。
3)オタク少年の自意識や、心の病の問題など、さまざまなメディアで取り上げられている手垢のついた題材を、手垢のついたまま扱っている気がした。そのため、観ていて実際の作品の出来以上にチープな印象を受けた。
4)前回公演の「遭難、」で見せた会話の微妙なやり取りの妙や、言葉の切れ味が、今回の公演では前回ほどは感じることができなかった。これは再演だったということもあって、致し方ないのでしょうか?

など、批判的なものばかりです。
これでつまらなかったら、「だからつまらなかったです。」で終らせればいい話なのですが、私個人、特に中盤以降は舞台に釘付けになってかなり楽しんで観てしまいました。では、それを補って余りあるほどのものがあったかというと、それも思い浮かばず。・・・こんな時、自分の表現力の足りなさがつくづくイヤになってしまいます。
ただ、相変わらず人間の過剰な自意識と、それと表裏一体になったコンプレックスの描き方は本当に上手いなと思います。自分の殻に閉じこもった時の頑なさと、その殻の中に入ろうとする人間に対する攻撃性と頑固さ。一見鉄壁なように見えて、自分の予想出来ない場所を突っつかれた時のモロさと、殻の中の自分の弱さ。そんな人間の形も大きさも硬さも、いびつなまでに不揃いな1人の人間の心の中を、本当にさまざまな側面から描いてくれています。ただ、それがグロテスクなだけでなく、所々に笑いを交えながら、エンターテイメント性も兼ね備えた作品になっていて、無理に理由を考えると、その辺りが観ていて楽しかった理由なのかな、と思います。
いろいろと問題の多い作品だと思いますが、逆に言うと、これだけひどい題材でよくもまあ、水準以上のレベルの作品までもってきたなとも思います。並の脚本家でしたら、見るに耐えられない作品になっているでしょう。今回は、とても皮肉な形で本谷さんの才能の凄さを感じることになりましたが、次回公演はもっと別の形で凄さを見せて欲しいとも思いました。