サンモールスタジオプロデュース特別公演「Nf3 Nf6」@サンモールスタジオ

(あらすじ)−公演のチラシより

  白のナイトをfの3へ、黒のナイトをfの6へ
これは最も難解な展開となるチェスの初手である
1945年2月15日早朝 ドイツのユダヤ強制収容所
           監守は将校。囚人は数学者
     チェス盤を間に展開する壮絶な頭脳戦
           白と黒に分かれた二人芝居

(感想)
去年、12月にパラドックス定数の公演で上演された二人芝居を、演出とキャストを一新して、プロデュース公演としてして再演された作品になります。ダブルキャストの公演で、私が観たのは、tsumazuki no ishiの寺十吾さんと今里真さんの出演されたBバージョンの公演になります。(因みにAバージョンは、劇団上田の江戸川卍丸さんとホチキスの加藤敦さんになります。)
初演も拝見したので、どうしてもそちらとの比較になってしまいますが、初演時は、ほぼチェス台とテーブルのみのシンプルなセットで、音響や映像も全くない、ものすごくシンプルでストレートな作品だった記憶があります。今回の公演では、映像を利用したり、ドイツの収容所の地下や衣装も作りこまれ、脚本が一部直されていたり、作品の日時が特定されてしたり、初演の時と比較して作品にしっかりと肉付けがされた印象を受けました。それによって、初演の時のような抜き身の鋭さやストイックな雰囲気が薄れた気がしますが、その分2人の登場人物像に厚みが出て、作品も整理されて見やすくなっています。
暗号器エニグマを製作した将校をチェスの黒に、数学者を始めとした連合国側の解読チームを白に見立て、チェスの対局と平行して行われる言葉と言葉の攻防はとてもスリリングです。解読チームのリーダー「白のキング」の正体が徐々に分かっていき、それとともに黒が孤立し積まれていくプロセスまではとても見事だった反面、その後が唐突に終ってしまいやや不満だった初演時よりは、将校と数学者のじっくりとした会話からゆったりとしたフェードアウトに向かってゆく終りかたの方が、観終わった後にいい余韻を残してくれるように感じました。
初演時と今回の再演時とを比較してどちらが面白いかは、基本的に好みの問題なのですが、今回の公演でちょっと気になった点が2点あります。1つは、数学者役の寺十吾さんの演技に私が観ても分かってしまう小さなセリフのミスが目立った点。この役者さんの力量を考えると考えられないミスが多かっただけに、私の観た舞台だけたまたま調子が悪かっただけなのか、それとも準備不足だったのか、どちらかなのか気になりました。
ただ、こちらの方はそれほど大きな問題ではないと思うのですが、もう1点、会場設営や運営面の手際の悪さが目立った点は、劇場のプロデュース公演なだけに、ちょっといただけないなと思います。特に問題なのは、座席の配置が悪く席によっては役者さんが座っているシーンがほとんど見えなかった点です。初演の時、チェスの指すシーンの美しさに感動した私にとっては、全ての人にチェスの指し手が見えない座席配置をするということは、この脚本の良さをどこまで理解して再演しているのか?そのことを主催者側がきちんと理解しているのか疑問に感じてしまい、とても残念に思いました。

初演の感想→id:ike3:20061204