風琴工房「crossing」@ギャラリーLa Grotte

「他者の言葉に出会う」事を目的に外部作品の2人芝居を2作上演した公演になります。各回20人のみということである程度は小さい会場だということは覚悟していたのですが、演劇を上演する場所というよりは、文字通り小さなアトリエという感じで、座席によっては役者さんまで1メートル以内という会場で、演目もいろいろな意味で気の抜けない演目で、観ている方もかなり緊張しました。ただ、程度の差はありますが、おそらく緊張したのは役者さんも一緒なんだろうと思います。セットや道具は芝居にどうしても必要な最低限なもので、音響もなし、照明はギャラリーの電灯をそのまま使うという環境で、役者さんの力だけが頼りというごまかしも小細工も一切利かず、役者さん達の細かいしぐさや表情まで実に良く見えます。今回は劇団や役者さんの勉強の意味が大きかったように見受けられましたが、私自身もとてもいい体験をさせていただきました。それぞれいい脚本で観ていて面白かったですけど、個人的には男優さん2人で上演した「5seconds」の方が好きです。演出を担当した詩森ろばさん、ここまで対照的な作品だと2本同時に演出をつけたのは本当に大変だっただろうなと思います。

・proguram-A「あやすまなさい」(脚本:前田司郎)
五反田団の前田司郎さんの脚本作品を宮嶋美子さんと、松岡洋子さんの女性2人で上演した作品です。話しの内容的には、寝ようとする女性と、その女性を眠らせたくない女性とのとりとめもない話しの話、といった所でしょうか。作品そのものは始めて拝見したのですが、私の観た五反田団の作品と比較してセリフも演技も輪郭がくっきりとして鮮明なイメージがして、2つの劇団のカラーの違いが出ていて、なかなか面白かったです。セリフそのものが大人の中にも子供っぽい幼さが感じられる作品なのですが、今回の2人芝居では幼さを残しつつ、どちらかといえば女っぽさを強調した仕上がりになっています。服装もかなりアダルトで、外見は平静を装いつつ、内心ではじろじろ見てたら失礼だし、かと言って芝居はきちんと観なければもっと失礼だし、というかなり強い葛藤がありました。(結局は後者が簡単に勝ってしまったのですが)
演出の方向性は面白かったですけど、個人的には2人の会話の間をもっとゆったりと溜めてもらった方が良かったように感じました。その方が不条理に脈絡もなく続いていく会話の面白みがじっくり味わえたと思いますし、場面によってはちょっと急かされているように感じたのが残念です。

・programB「5seconds」(脚本:野木萌葱)
パラドックス定数の野木萌葱さんの会話劇を浅倉洋介さん、山ノ井史さんの2人で演じたプログラムになります。昭和57年の日航機墜落事件という実際の事件を題材にし、機長と弁護士の会話で事件の真相に迫ってゆく作品です。個人的にはこの劇団には野木さんの作品はかなりハマるだろうと思っていましたが、予想通りなかなかいい出来に仕上がっています。
もともととてもいい脚本ですし、Aのプログラムが劇団としてのカラーが強く出たのに対し、こちらはストレートに脚本の良さを生かす方向で演出したように見受けられます。とは言っても傲慢ともいえる機長の正常とも異常ともつかない姿、弁護士の職務への忠実さと被告を救おうとする気持ちとが板ばさみになった姿等、複雑な人間心理を最後まで緊張感を保って演じるのは結構大変な演目だったのですが、お2人ともよく演じられたと思います。日航機墜落の核心に迫るやり取りは、物語の結末がどう転ぶのか最後まで分からず、とてもスリリングでした。