風琴工房「紅の舞う丘」@ザ・スズナリ

(あらすじ)
大手化粧品会社を辞めて、仲間とともに新たに化粧品会社を立ち上げた一人の女性。彼女には肌にいい無添加の化粧品を作りたいという一つの大きな目的があった。
生産ラインや販路の確保などつぎつぎに直面する問題。追い詰められながらも何とか解決していくのだが、彼女達は最大の難問に直面する。それは、彼女達の夢である無添加の化粧品を作ろうとしても、品質保持のためにどうしても1種類だけ添加物が残ってしまうということだった。
(感想)
ポストパフォーマンストークの話しによると特定なモデルとなった企業はないそうですが、入念な取材に基づいて描かれた、化粧品会社創業の話しです。個人的にはそのまま実話をなぞるより、実話を再構成して物語を膨らませたほうが、演劇と言う表現形態に馴染むのでは、と思っているので、特定の実話に基づくよりは、こういった話の方が好きです。ただ、題材が女性の視点で描かれた、化粧品会社の話しということで、自分の興味とは対極といってもいい話なので、行ったのはいいけど果たして舞台に入り込めるのかな?という不安もありました。ただ、始まってみると男性の私にとっても決して取っ付きにくい話しではなく、1つのものを作り上げていく課程というのは、とても共感できるものがありました。それだけでなく、80年代という舞台設定があるので現代の実情とは必ずしも一致しませんが、女性として働くというだけでさまざまなハンディキャップを抱えてしまうということ、働くということと子供を産むということの間の悩み、女性が化粧をすることの意味など、女性ならではの視点で描かれていて、目から鱗が落ちたり、色々と考えさせられたりしました。
正直な所、演出家の要求した演技のハードルの高さを越える事が出来ずに、演技の細かい所がおぼつかないと感じたところが幾つかありましたが、それをカバーしてあまりある丁寧に作られた作品で観ていてとても好感が持てました。その中で特に効果的だったのは、中盤に笹野鈴々音さんが販売員として登場するシーン。物語の構成上、化粧品の生産や研究のウエートが重くて販売の話しがないと思っていた矢先の登場はタイムリーでした。それに、舞台がちょっと停滞気味の時に登場して、一人で舞台の流れまで変えてしまったあたり、この劇団にとってこの役者さんがいるということは、本当に大きいと思います。
作品そのものももちろんですが、劇団としての姿勢が観ている側に対してとても誠実に感じられる公演でした。個人的には今後も応援したい劇団です。