ハイバイ2本立て公演「再演『ヒッキー・カンクーントルネード』+プレビュー公演『おしえて放課後』」@アトリエヘリコプター

演劇の感想で出来るだけお金のことは書かないようにしているのですが、作品のクオリティやサービス精神と比較してとってもリーズナブルな劇団、ハイバイ。今回も旗上げ公演の作品の再演と、次回公演のプレビューの2本立てで2000円というお得な価格で、観に行っている側にも関わらず申し訳ない気分になってしまいます。
季節はずれの寒さには閉口しましたが、作品の方はどちらもなかなかの出来で満足しました。プレビューを観てもらう→アンケートを書いてもらい、それをウエブで公開したり参考にしたりする→本公演を上演する、というスタイルは観ている側も作品が出来ていく過程を見る事ができたり、同じ作品を観て他の人はどう感じたのか、とか書いたことに対して、作・演の岩井秀人さんが何を思ったのか、等が見えてとても面白い試みだと思いますので、可能な限り続けていって欲しいなと思います。
・「ヒッキー・カンクーントルネード」
(あらすじ―公演の案内より)

プロレスラーになりたいけど引きこもりの森田登美雄(渡猛)。
唯一の理解者である妹(中川幸子)と、今日も楽しくプロレス談義。
心配していた母親(平原テツ)は引きこもりを引きずり出す職人『出張お兄さん』(松本裕亮)に相談をしに行くのだが。

(感想)
主人公と妹の2人だけの関係が、出張お兄さんの存在で変化してゆきます。登美雄を間に挟んだ3人の微妙な距離感が思いのほか繊細に描かれた作品です。今回は、お母さん役をわざわざ男性でイケメン、長身の平原さんに演じさせたあたりの露骨なまでの胡散臭さと、その嘘くささを交えながらも会話のナマナマしさや出来事が進んでいくリアルさの舵取りが絶妙に感じました。ただ、その空間や独特な世界観が何の仕掛けも前置きもなく進行してゆくので、そこに馴染んで面白いと感じるまでにはちょっと時間が掛かりました。全体的に、大きく「ドカン」と来るような感じはなかったのですが、しっかりとまとまっていて良く出来た作品でした。登美雄を説得して外に連れ出そうとするシーンなんかもそうなのですけど、嘘をさも事実のようにすり替えてゆく手並みにはとても鮮やかなものがあり、芝居を観ている途中に「岩井さんって詐欺師でも食ってゆけるんじゃないか」って思いながら観ていました。
・プレビュー公演「おねがい放課後」
(あらすじ―公演の案内より)

なにかしら原因があって19歳なのに肉体的には約76歳の志賀コウタロウ君(三浦俊輔)と、彼を取り囲む、陽気な同級生達。
ある日、演劇部の新しい顧問がやってきて、
それまで部の中心だった志賀君の立場が一気に揺らぐ。

(感想)
今回は、若手の三浦さんの髪の毛をそって、マジックでシワを書いて主人公の志賀君役を演じています。顧問役の青年団古舘寛治さんにカツラを無理矢理剥がさせたり、かなりきわどい笑いなのですけど、「そんなアホな」と言いたくなる設定と、切れ味の鋭さで、不謹慎だと思いながらも笑ってしまいます。ハイバイの作品を何作か拝見させていただくと、こういった社会的弱者と呼ばれていて笑いとしては一種タブーの部分を取り上げることによって、大笑いしながらも、私達観ている側の心の底にある毒の部分というのを容赦なく抉り出してくれるあたり、作・演の岩井さんの心意気や覚悟というのは感じられます。
ただ、一方で今回の作品でも、設定が志賀君の外見以外にあまり生かされていないために、10代なのに老いてしまった志賀君の心理や彼等の周囲の人達の反応が置き去りになってしまい、場面によってはただ単に彼の外見を茶化しているだけの芝居になってしまったのがちょっと残念でした。
一方、今回はハムレットを使った劇中劇のシーンの面白さは際立っていました。世界的演出家=古舘さんという飛び道具ともいえるハマリ役を使いながらの理不尽な演出家と虐げられる役者との関係や、劇中の日常と演劇を演じている時の微妙なセリフ回しや役者間の距離感や空気の微妙なズレの作り方なんかは本当に上手いなとつくづく感じます。演劇を演じるということが私達から見たら特殊な出来事でも、彼等から見たら日常のことなんだと考えると、実は彼等は話しを作ることよりも、日常を観察する事や切り取ることに非凡さを持っているのではないかと思いました。
今回のプレビューはとても楽しく観させてもらった反面、課題が多いようにも見受けられましたので、本公演でどう変化してゆくのか、そういった部分でもとても楽しみです。