パラドックス定数「プライベートジョーク」@サンモールスタジオ

(あらすじ―公演のチラシより)

ルイス・ブリュエル、映画作家。ガルシア・ロルカ、詩人。サルバトーレ・ダリ、画家。
紺碧の海。絶景に佇む白い家。
若さゆえに才能を持て余す三人の男。その破天荒な共同生活。

アルバートアインシュタイン、物理学者。パブロ・ピカソ、画家。
白い家に二人の男が訪れる。奇跡の様な魂の饗宴。悪夢のような人間関係。
天才がいる。狂人がいる。だからこの世は面白い。

(感想)
5人の天才達の饗宴を虚実交えて描いた作品。家に帰ったあと、グーグルで5人のことを調べてみたのですが、5人の実際のエピソードが作品の細かいところの至る所に使われていて、例えば、ダリが頭をフランスパンで殴られるシーンなんかも、ダリの作品に引っ掛けたエピソードだったり、「なるほど、こういうことだったのか」と観終わった後に1人勝手に納得。
この劇団の作品は前作「Nf3 Nf6」で始めて拝見したのですけど、どちらの作品も史実を下敷きにつつも、それを再構成して、新しい視点から緻密でひねりのきいた作品作りをしてくれていて、とても見応えがあります。プロモーションの部分がもうちょっとしっかりしていたら、このクラスやもうワンランク上の劇場なら、コンスタントに公演を打てる力は充分にあると思うので、もったいないという気分と、得したという気分が入り混じった複雑な気分になります。
冒頭のシーンこそはコミカルでややゆるい感じがしたのですが、特に中盤以降は饒舌な語り口と、沈黙のシーンとを交互に組み合わせながら、一定の緊張感を持たせながら舞台は進んでいきます。登場人物の名前や必要以上の固有名詞を使わないことで、説明的なシーンを可能な限り排除し、それが作品の緊迫感を保つのにはものすごく有効だと思うのですが、同時に一方では、後で調べて始めて理解できたシーンも結構あり、小説でしたらこれでいいと思うのですけど、演劇としてはテキストにもう少し親切さが欲しかったです。
それと気になったのが、せっかくそこまでして作った天才達の競演の緊迫感が、ときおり役者さんたちの配役とは別の「素」の部分が見えてしまったために少し削がれてしまったのが残念でした。この辺は、外国人でそれも歴史上の天才達を演じる上での役作りや、彼等自身になりきるということの難しさが出てしまったのかなと思います。
ただ、その中でも、ピカソ役の野口雄介さんは、政治活動に全く興味がなく、クールでシニカル、けど酒好き女好きという、ピカソ役を好演しています。そんなピカソがなぜ「ゲルニカ」を描いたのか?という物語のクライマックスが盛り上がったのも、ピカソの「そんな」の部分を上手く演じた野口さんの力が大きかったように思います。クライマックスのシーンも少々力業ながらも、史実をフィクションとして鮮やかに作り変えていて、とても面白かったです。
演技や脚本面に気になる部分はありましたけど、全体的に見たら、骨っぽくて見応え充分な作品でした。それと同時に、さまざまな「モノ」を創り出す天才達を通じて、「モノ」を創る事の重さと、それに対する作り手の覚悟(特に作・演の野木萌葱さん)とを感じました。