キラリ☆ふじみで創る芝居「耽餌」@キラリ☆ふじみ マルチホール

(あらすじ―公演の案内より)
ヌエが出所した――看護士だったヌエは元々子供が産めない体だった。
 その為、性行為を繰り返していた・・・・・・が、実を結ぶことは無かった。
夜勤の見回り中、新生児室を覗くと、その前に生まれたばかりの赤ん坊が寝ていた。

            誰もいない。
    新生児室に入っていくヌエ。そして首に手をかける。
     ちょっと力を入れただけでポキっと音がした―
   ヌエはその感触が忘れられない。確かに罪を悔い、償う気持ちでいっぱいだ。しかし、ポキッと折れた時の手に伝わる、微かな振動を思い出す度に後悔の念と同時に心が躍った。
 しかし、それだけは人に言うわけにはいかない――はれてヌエは出所してきた。「付き人」とともに。

           ※「付き人」制度
再犯撲滅を目的とした制度――刑務所で罪を償い、更生し出所を許された元犯罪人と「付き人」と呼ばれるその公務員が寝食を共にする。いつ何時も元犯罪者と行動することにより再犯を防ぐ。
       この制度にはもうひとつの目的がある。
    その、元犯罪人が被害者・遺族による逆恨みの連鎖被害を防ぐ警護的な役割も持つ。       

(感想)
かなり変わっていてどこか狂気を漂わせた登場人物達に、作りこまれた薄暗いボロアパートのセット。不気味さと嫌な感じを漂わせながらも冒頭は雰囲気ほどは怖さを感じず、むしろユルい雰囲気だと思っていて油断してしたら、見事にしてやられました。
何気ない流れだと思っていたら、さりげなくセリフ1つの中に強烈な悪意のひとさじを落とし込んだり、かと思えばボクシングのボディブローのようにあとからジワジワとダメージが来るような、何ともいえない嫌な気分が襲ってきます。計算ずくというよりは、むしろ天性のものだとは思うのですけど、物語の中への狂気の潜ませかたが絶妙です。
これは、狂気のシーンやそういったものを孕んだ登場人物達の描き方が上手いというのもあるのでしょうけど、それと同時に日常のシーンの会話やしぐさがかなりリアルなので、非日常のシーンやかなりエクセントリックな登場人物達の行動とのギャップが作品の中に絶妙な緩急や落差の大きさを生み出しているのだと思います。
作・演の下西啓正さんがアフタートークで作品をメソッドではなく、まず始めに絵から作ってゆくといった感じのことを言っていましたけど、アパートのセットや小道具一つ一つまでかなり細かく作りこまれているのを見ていると、その言葉にも納得できます。そしてセリフや動作については下西さんが役者として出演されたチェルフィッチュの影響を受けているのかな、と感じる部分がありました。それが前述した日常のリアルさを生みだしてはいるのかなとは思ったのですけど、同時に作品の空間と会話とが少しギクシャクした部分を作り出してしまった原因にもなっているような気がしました。その噛みあわなさが逆に不気味さを生み出していますので、この辺は一長一短だとは思いますけど。
オーディションで集めたとは思えないくらい作品にマッチした「変な」(褒め言葉です)役者さんがそれぞれの持ち味を出していましたし、遠距離まで足を運ぶ価値はあった公演だったと思います。4月には下西さんの所属する「乞局」の公演もあるので、そちらも足を運んでみたいと思っています。