少年社中「チャンドラ・ワークス」@中野ザ・ポケット

…あらすじ―公演の案内より

これは、“ここ”ではない“どこか”の物語。

僕は、この国に生まれ、この国を愛している。
僕は飛行機に憧れて、飛行機に乗りたいと思った。
だから、空軍のパイロットになった。

サンサーラ。それが、僕の名前。

今度の伝説の設計技師「チャンドラ・スバース」率いる、
飛行機工房『チャンドラ・ワークス(月の工房)』
高々度偵察機のテストフライトが目的だ。

この工房を訪れることは、僕の夢だった。
信じられない性能の飛行機を生み出してきた夢の工房。
パイロットなら誰でも憧れる夢の飛行機。

胸を躍らせて工房にたどり着いた僕は、
チャンドラから驚愕の事実を聞かされる。
彼は新しい偵察機に全く別の性能を与えようとしていたのだ。

「お前を宇宙へ送ってやる」

(感想)
宇宙に飛び立つという大きな夢に向かう人達の姿を描いた寓話タッチの作品。思惑の違いや意見の相違を乗り越えて1つの夢に向かっていくという一体感がしっかりと描かれた作品だったと思います。中央から奥手に向けての緩やかな上りのスロープしかないシンプルな舞台なのですけど、目まぐるしい場面展開を繰り広げる事により、様々な絵を作り出していきます。目まぐるしいスピード感に負けない役者さんの体力と演技ももちろんなのですけど、照明や音楽の使い方が効果的で、シンプルな舞台にいろいろな奥行きを与えてくれます。多くの人が夢に向かって進んでいく時って、理屈では計りきれない熱が生まれることがありますけど、そういった何だか訳の分からない突き抜けた力や情熱といったものを感じ取る事ができた作品でした。寓話的ということもあって、結構ベタな展開や、聞いているほうが恥ずかしくなるようなセリフがあったりするのですけど、それが不思議な位しっくりくるのは、作品の性質と同時に役者さん達の力が大きかったと思います。特に、パイロットのサンサーラ役の堀池直毅さん、国の王子で工房の責任者のチャンドラー役の井俣太良さん、居候で作品の狂言回し的役割を果たしたクウ役の加藤良子さんは存在感があってなかなか良かったと思います。
全体的に良く出来ているとは思いますし、面白かったのですけど、ただ彼等の熱さに身をゆだねて作品に入り込むというところまではいきませんでした。それは、この作品が夢に向かっていく熱については実に上手く描いているのですけど、彼等がなぜそこまで夢にむかって駆り立てられてゆくのか、その動機付けの部分が充分に描ききれてなかったからだと思います。たとえ失敗して尊い命を失っても、それでも前に進んでいく、そこの部分の説得力がいま1つのために、せっかく場面場面のシーンが良くても、どこか芯がしっかりしていないように感じましたし、そこがしっかり描けていればものすごくいい作品になっていたと思うと、とても残念にも感じました。