贅「煙の先」@渋谷ギャラリールデコ5階

ストーリー―公演の案内から
ある地方都市。生花店で衝動的に万引きした奥寺(内田慈)は、店長の古橋(板垣雄亮)に満つかってしまう。万引きした花は高級品の希少花の鉢植えだった。
従業員控え室で、古橋は奥寺を問い詰める。奥寺は常連とまではいかないが、店員の天野(瀧川英次)は彼女のことを覚えていた。
天野は、花好きに悪い人はいないと情状酌量を求める。
古橋は奥寺の家の室内を確認させることを条件に警察の届けないことにする。最近、転売目的と思われる高級花の盗難が少なからずあり、彼女の万引きが一回性のものであることを確認したかったのだ。
古橋は奥寺の家で金田(岩井秀人)という男に会い、金田から奥寺の人となりを聞く。奥寺は無類の花好きで、大学院の植物生殖遺伝学を勉強している苦学生らしい。古橋は結局奥寺を見逃す事にするが、内心疑いを深める。
古橋が思った通り、金田は奥寺の知識を利用し高級花の盗難と転売で荒稼ぎしているのだが、証拠がつかめない。奥寺への疑いを口にする古橋に、天野は感情的に反発する。
そんな中、奥寺は天野に盗難の事実を告白する。
天野は金田に利用される奥寺を救おうとするのだが…。

(感想)
脚本の行間を役者さんの演技やアドリブで埋めていって原型の作品を上回る作品を生み出す事。このユニットの最終的な目指すところというのはおそらくそんな所ではないかと思います。おそらくこの作品って脚本に忠実に演じたら(とは言ってもある程度はアドリブが入るという前提に書かれていたとは思われますけど)、マインドコントロールとかについて扱ったかなりシリアスな作品になるような気がします。それが私の行った公演では全く形の変わったコメディへと変化していました。そういった作品だったということもあり、所々ではすごく危なっかしさを感じる場面もあり、心の中で何度「ふんばれ!」と叫んだ事か・・・。それでもそういった場面を本当に踏ん張りきって1本の作品に仕上げてしまうあたり、さすがに力のある若手の役者さんが揃っているだけのことはあります。作品の性質上演出家不在と言うことでしたけど、私のイメージでは、場面場面に応じて各々が演出をつけていくようなイメージがしました。その場ごとの柔軟な対応が要求されていて見た目以上に作者さん達に負荷をかける作品で、演出家のくびきを逃れても自らを縛る彼等を見ていると、役者さんの持つ難儀な性というのを感じずにはいられませんでした。
試み自体は大変面白いと思いますし、12月のプレビューと比較したらやりたいことや目指す方向性や、その先にある可能性というものがはっきりと見えてきたとは思います。ただ脚本と役者とのガチンコ勝負、役者さんもよくがんばったとは思いますけど、今回はやや脚本の方が勝っていたように感じられました。もともと45分の作品を90分までアドリブで引っ張ったものの、内容的に間延びした部分が出来てしまったり、1対1のシーンが多いために作品の広がりという部分やアドリブの面白さの醍醐味という点ではややもの足りなかったように感じました。もっともそこまで要求するのはこのメンバーだからという部分も多々ある訳で、上演中には充分に笑わせてもらいましたし、旗揚げ公演ということを考えれば充分に及第点の公演だったように感じます。多忙な方が揃ってはいますけど、プレビューから本公演まで今回はやや時間が足りなかった面があったのは否めないので、次回の公演はもう少し準備期間を取ってじっくりやって欲しいです。その時には、プレビューに出演されて本公演は日程の関係で出られなかった多田淳之介さんにも出演して欲しいなと思います。