innerchild「アメノクニ/フルコトフミ」@時事通信ホール

(あらすじ)
ユーレンシアの役人・ヤスマール(太安万侶)は、ある時国王から歴史編纂室で国史の編纂を命じられる。しかしそれは本当の歴史を書く作業とはかけ離れた、国家や権力者にとって都合のいい神話を作り上げるという作業だった。そんな捻じ曲げられて作られた神話が「真実」として世に出される事に抗う事もできず、それが一人歩きして力を持ってしまうことに恐怖を感じるヤスマール。
そんな重荷に押し潰された彼は、家族や現実の問題と顧みようともせず、ますま神話を編纂する作業へとのめりこむ。
そんな彼はある日、そんな現状から逃れたいため、そして歴史の真実を知りたいという欲求のため、隣国に赴こうと決心するのだった。
(感想)
ぴあでチケットを取った時におおまかな舞台と座席の配置を教えてもらったのですけど、舞台を横長にかなり広く取っているということだったので、どういう舞台になるのか、行く前から楽しみでした。神社の神殿のような広いスペースを使って繰り広げられたのは、その大きなスペースにふさわしい壮大な群像劇です。奈良時代古事記誕生の物語と、満州事変前後の時代という2つの時代の史実を再構築し、フィクションを織り交ぜながら壮大なスケールの物語に作り変えていった脚本家の小手伸也さんの構成力にはただただ脱帽です。
そこではさまざまなことが語られているのですが、その中でもっとも印象深かったのは、歴史や神話が実際とはかけ離れて権力者の思惑で作り出されていき、どんな経緯であれそれに命が吹き込まれていくと力を持ってしまい、後世の人々を縛ってしまうというという歴史的事実についてです。学生時代に歴史を専攻していたころに、古代史を勉強していると、たまたまそれしか記録が残っていないのでそれが歴史的事実として扱われているが、もしかしたら真実はそれとまったく違っていて当時はそれを反証する文献が存在していたのかもしれないという疑念を振り払うことのできなかった私にとっては、共感できる部分は多かったです。ただ、こういう形でやるのであったら、でっちあげでも神話が力を持ってしまうという部分を一面的に描くだけでなく、それに抵抗したり批判したりする力が反作用として存在していくということを描いていかないと、どこか片手落ちのような印象を受けました。
そこで描かれている世界というのはスケール感がありとても面白いと思うのですけど、メッセージ性が強い作品の割にはそれが一方通行だったり、さまざまな要素を詰め込んだためにぼやけてしまったりして、今一つ伝わってこないように感じたのが残念でした。
ただ、この作品は9月に吉祥寺シアターで上演される次回公演の作品とセットになっているとのこと。ですから、その作品とセットで評価しないとアンフェアだと思います。大きく広げるだけ広げた物語にどうやって決着をつけるのか?少なくても、そういった興味を引っ張ってくれるだけの作品だったとは思います。