グリング「虹」@紀伊国屋ホール

(あらすじ)
盆地に面した地方都市にあるカトリック教会。そこでは、教会の神父とその妹夫妻、その夫の友人の男とその妻、神父の母親や、信者の保険員に教会に来た人間に契約を持ちかける彼の先輩など、さまざまな人物が彼のもとを訪れる。
そんな教会でのある日、クリスマスのミサを目の前にして、彼等は各々が自分達なりの形でその準備を行っている。そんな、教会の平穏な日々とは別に、彼等は人間関係でさまざまな悩みを抱えている。子供ができないためにすれ違う2組の夫婦に、義理の息子を巻き込んだ親子の対立、そしてそれになす術もなくあいまいな態度を取り続ける教会の神父。
そんな日常が繰り返されるある日、教会とは全く関係のない一人の女性が現れる。彼女は事故で亡くなった神父の兄に頼まれてここを訪れたというのだった。
(感想)
冒頭から中盤にかけては自分のイメージよりも随分と淡いタッチで作品が進行していったように感じます。このままで終るはずはないとは思いながらも、話しの軸線が今一つ鮮明に見えてこず、少しだけ不安を感じてしまいます。ただ、そういった状態でも登場人物達の人物像ですとか入り組んだ人間関係といったものをきちんと描ききるあたりは流石だなと思います。役者さんも脚本も全体的に派手さはなくストーリーが劇的といえるくらい大きく動くのは2シーン位ですけど、それでも生きるという事や肉親や夫婦のつながりといった人間の根幹に根ざす問題を深く掘り下げていっています。前半はやや散漫気味だったストーリーをクライマックスで一組の夫婦の問題に焦点を当て一点突破のようにストーリーを進めていくことにより上手くまとめたように感じます。他のシーンが淡々としながらも丁寧に作られていつため、劇的に動く2シーン(女性に兄が乗り移るシーンと、神父の妹の夫がHIVだと分かるシーン)がとても効果的で、このシーンのためだけでも観る価値だあったように感じました。特に夫を妻が力づけるシーンは、逃れる事のできないやりきれない出来事でも、それを支える人がいればもしかしたらそれを受け入れて生きていけるのかもしれない、そんな気持ちにさせられまいした。
ただ、惜しいなと感じたのは、終盤に1点突破を図ろうとしたために、せっかく前半を使って描いてきた他の人間関係や伏線等があまり生かされていきっていなかったことや、話しの中で夫がHIVに感染しているという部分に到るまでの流れがやや唐突で必然性があまり感じられなかったことです。作品の中に社会問題を取り上るのが1つのスタイルなのかもしれませんけど、ストーリーを犠牲にしてしてまでそうする意味がさほど強く感じられず、「別にHIVでなくたって、他の病気だっていいんじゃないの」っていう気がしました。
作品としてはとても上手くできた作品ですし、最後のシーンは深い感動を呼び起こしますけど、そこが良かっただけに、そこに到るまでの部分が逆にちょっともの足りなさを感じた作品でした。