デス電所「夕景殺伐メロウ」@駅前劇場

(あらすじ)
そこは現実の世界かどうかもはっきりしない世界。
太陽が地球に近づいてきて、近い将来に滅びる事になっている世界。その世界では「粒子」と呼ばれている人間達が、いつ来るか分からない終末に怯え、なすすべもなく暮らしている。
彼等の心の拠りどころは、カセットレコーダーから流れる「先生」の指示のみ。その指示も、物事を「萌え」と「萎え」に分類したり、ボーイズラブの研究だったり、変なものばかりだが、彼等は彼等なりに必死。
そんな時に、彼等のもとに新しい「粒子」がやってくる。彼女は、お互いの本名を知らない「粒子」の中から、誰かを探しているようだった。彼女の目的とは一体?
これは、そんな世界で暮らす「先生」の連絡役の「姉」と、絵の中にいるカセットレコーダーを持った「妹」と、その仲間達の話。カウントダウンが終った時、彼等のもとを訪れる終末とは…。
(感想)
最初の内は、独特なハイテンションな世界に、面白さよりもどう反応していいのかという感情が先に立ってしまい、ものすごいとまどいを感じました。ダンスも和田俊輔さんのナマ演奏も含めた音楽もレベルが高くかなりしっかりしているのですが、肝心のそこで演じている内容がオタクネタや下ネタをふんだんにかつ臆面もないにも関わらず、出演者全員大真面目の真剣にやりきってしまっています。それが計算されつくした凄さなのか、それともただのお馬鹿集団ゆえなのか、残念ながら私の器量ではいま一つつかみかねます。ただ、その辺をあまり深く考えさえしなければ作品自体は、パワフルでとても面白い作品です。特に、特急電車の中でトイレを我慢しているうちに、更に別の方も…というネタを、ミュージカルタッチで真剣に演じえられた日には、こちらとしてももはや笑うしかにという気持ちにさせられます。このネタの他に、アニメのパロディ(というよりもはやただのパクリ)からボーイズラブのお約束ネタや、なぜかデュランデュランまで、ふり幅は大きいですけど、バラエティに富んでいて、小気味がいいです。
前半部は、こうした笑いのネタや劇中歌やダンスを取り入れながら、どこか断片的な印象がする作品です。「粒子」と呼ばれている人達、特に1組の姉妹の存在という物語に一本筋を通す枠組みはあってそこからは外れないようにしていますけど、いろんなものを好きなように詰め込むだけ詰め込んだような舞台です。
中盤から後半に掛けても同じ感じで進行していくのかなと思っていたら、前半のバラバラの断片の中に散りばめられた伏線を上手く回収しながら物語の全体像が少しずつ見えてきます。そこで語られているのは、インターネットやブログの中を想起させる世界と、その中できちんと人とつながることができず、つながりたいがために日常とは全くかけ離れた嘘を綴ってでも自分を見てもらいたいと思う一人の少女の話しです。この辺は、人とつながっているように見えて実は孤独という、現代社会のコミュニケーションの問題に鋭いメスを入れていると思いますし、ブログで注目されたいがために放火魔になった女性の事件を連想させます。
けど、この作品については、そんなに深いことを考えながら観る見方というのはどこか嘘くさいですし、この劇団の本来の楽しみ方とは違うんだろうなとも思います。何にも考えずに、ハイテンションな世界に身を委ねてひたすら楽しみ、姉妹のせつないラストシーンにひたすら感動する、といった楽しみ方が一番いいんだろうと思いました。