ブラジル「恋人たち」@王子小劇場

(あらすじ)
とあるアパートの一室。一組の恋人たちがアパートの一室で焼身自殺を図ろうとしている。男(辰巳智秋)は本当は死ぬ気なんて全くなかったはずなのに、行くあてがないといって男の部屋に来た女(桑原裕子)の「死にたい」という強い気持ちに引きずられて、いつの間にか一緒に心中することになってしまった。
灯油をかぶりあとは火をつけるだけというまさにその時、ドアからしつこい位のノックの音が…。それから変な人が次々と訪れて、話しは彼等の予定から少しづつずれていくことになるのだった。
(感想)
そもそも最初の心中未遂の話しから始まって、そこで演じられていることというのは、私達の日常からかなりかけ離れた出来事なのですけど、観ている側にとっては妙に生々しさを感じる舞台です。無茶苦茶な部分とリアルな部分とのさじ加減が絶妙な作品です。最初、このストーリーだったら辰巳さんと桑原さんの2人プラスアルファ位のキャストで話しが進んでいくのだろうか、そうだったら何でこんなに役者さんが必要なんだろうかと思っていたのですけど、アパートのドアから台所の小窓から、ひとくせもふたくせもある人達が次から次へと登場します。アクの強い役柄を演じている実力のある役者さんがこれだけ揃っていると、「次はどんな役者さんが、どんな役で登場するのだろうか?」と観ていて楽しくなってきます。途中から部屋のドアが気になって仕方なかったです。
そんな実力派の役者さんが揃った舞台は、起こったことや笑いを小さく小さく積み重ねてものすごく丁寧に作られていて、気が付いたらまるっきり違った場面に放り込まれているような気分になります。
作品の作りのきめ細かさや演技とは対照的に、部屋のセットの方は大荒れ。殴る、蹴る、押し倒す、体をガムテープでグルグル巻きにするだけでは飽き足らず、部屋中のセットはもちろんのこと、果てはおでんのちくわまで飛び交う大乱戦。私が行った時は、2回公演があった日の一回目だったのですけど、舞台が終った後にぐちゃぐちゃになったセットを片付けて元に戻す方達に、心から同情しました。そういった物が飛び交うシーンなど、役者さんには極端なキャラクター像を持った人物造形を与えておいて、ある程度はアドリブで自由な裁量を与えているように感じました。
舞台の中でずっと死について扱っているように、そこで扱っているテーマは重く深刻なものなのですけど、それを重荷に感じさせない、観ている側からすると押し付けがましさを感じさせないところに好感が持てました。役者さんの質の高い演技もあって、時間が経つのを忘れさせてくれる、良質の作品でした。