殿様ランチ「桜田ファミリー」@しもきた空間リバティ

(あらすじ)
結成してから40年以上の歴史がある桜田ファミリーサーカス。少しやる気には欠けるがサーカス団のことを彼なりに考えている二代目の社長と、人望はあるもののギャンブル癖がある雇われ社長のもとがんばってはいるが、残念ながら客入りの方はいま一つ。
そんな彼等は今サーカスのショーのため愛媛にやってきている。そこはメンバーの一人の火噴き男の実家の近くで、サーカスの楽屋に彼の兄がやってくるのだが、これがとんでもない男で…。
(感想)
サーカスの舞台裏を描いたいわゆる「楽屋芝居」といえる作品でしょうか?こういった種類の作品の場合、私達の普段見た事のない裏側のリアルな部分を覗き見するという感覚の面白さに、舞台としてのフィクションの面白さをどう取り混ぜていくかが、ポイントだと思います。最初の内は、舞台があまりにも淡々と進んでいくので、このまま終る訳はないとは思うけど、もしこのまま終ってしまったらどうしようかとものすごく不安でした。その中でも、サーカスの社長役の板垣雄亮さんの存在感はこの劇団のなかでも一枚抜きん出ています。大川総裁のような風貌で大真面目な演技をしながら、会話をちょっとズラしながらの笑いのシーンは美味しすぎます。板垣さんを始めとした個性と存在感のある役者さんと、マジメにしっかりとした演技で芝居を作っていく役者さんの配置がものすごくバランスが良く、これが中盤以降の面白さへとつながっていきます。
物語の方も最初の方はちょっと淡白だと思っていたのですけど、そこで登場人物の人間関係や、団員一人一人が抱えている問題をきちんと描いていて、こちらの方も物語を盛り上げていく大きな要因になっています。雇われ団長の借金の話し、火噴き男とその兄の話や、空中ブランコの演技をする2人の演技が上手くいかない話しなど、彼等一人一人の問題が、彼等のやりとりを通して描かれていたのですけど、その姿が実に人間くさくて、その辺りが観ていて一番面白かった部分でした。サーカスという表向きは夢のある舞台の裏側は、表面が華やかであればあるほど、とことん現実的な世界が横たわっていると思いますけど、そういった部分が描けているという点でも良く出来ていた作品だったと思います。この作品ってサーカスの公演のことや、団員の抱える悩みや問題を膨らませることによって、もっと起伏の大きな作品を作ることはそんなに難しくなかったと思いますし、それが最初の方にもの足りなさを感じてしまった理由でもあります。それをあえて書き切らなかったのは、いろいろな事があっても突き詰めていると変わらないサーカス団の日常を描きたかったからなのか、それとも単に続編を作るつもりなので出し惜しみしているのか、そこらへんはこの劇団の今後の活動を見てみないと何とも言えません。
素晴らしいというレベルまでは行っていませんけど、全体的にまずまず面白い作品だったと思います。