自己批判ショー「木曜の男」@王子小劇場

舞台のチケットを取った後、その後に感じることは、その公演によって実にさまざまだと思います。楽しみで仕方ないとか、早く公演日が来て欲しいとか…。この公演については、なんで予約してしまったのか自分でも血迷ったとしか理解できず、劇評系のサイトでもボロけなしされていたので、始まるまでとても憂鬱でした。
最初は「こりゃ最後まで観れるかな」ともの凄く心配だったのですけど、案外最後まで観れてしまいました。佐藤佐吉演劇祭に出ている他の劇団のホームページを観るつもりが、間違えてクリックしてしまい、そのホームページのしょぼい笑いが思いのほか自分のツボに入ってしまったために申し込んでしまった公演だったので、ワンオアナッシングで中途半端はないと予想していたのですけど、その期待については見事に裏切られた、なんと評していいのか難しいビミョーな公演でした。
(あらすじ)
舞台は大正時代とも今ともどちらとも取れる時代。表向きはメンバーを曜日で呼び合う俳句同好会で、実は無政府主義者の秘密結社という謎の組織に、一人の警察官の男が潜入捜査を計った。その組織で、男はかっての同級生だった女性に出会う。彼等のリーダー「日曜」は自分達の組織の野望のため、朝鮮首脳会談の転覆しようとするのだった。果たして、彼は「日曜」の野望を阻止することが出来るのだろうか?
(感想)
上演前にリーダーの栗原崇浩さんが登場して拍手や振り付けなどの劇団のお約束についてのレクチャーがあったのですけど、これがまた自分一人だったら恥ずかしくてとても出来ないシロモノで、この段階でドン引きしまくっている自分がいました。ただ、私の行った回は身内の方なのかコアなファンなのか分かりませんが、会場のノリが気味が悪いくらい良く、そんなこともあって諦めて彼等の世界に身を委ねてみると、これはこれで悪くはないかもしれないと思えてしまうから不思議です。正直、最初の内は、こんな場所に来た我が身を呪いかけましたけど……。
肝心な物語の方も、そんな恥ずかしい前説の流れを引きずるかのように、そのままズルズルなし崩しにすすんでいきます。一応、チェスタトンの「木曜の男」が原作になっていますけど、基本的には設定とストーリーの大枠を上手くつなぎに使い、そこに思いついたコントを並べていく形で舞台は進んでいきます。最初の前説のお約束や生バンドの演奏を取り入れたことといい、多分、昔のドリフタ―ズとか欽ちゃんバンドのコントの部分を意識しているんだろうと思います。
楽曲には問題はありますけど、ミュージカルの歌の部分も結構本格的で、充分に鑑賞には堪えられるレベルですし、笑いの部分も所々ではセンスを感じさせてくれる部分もあります。上手いか下手かどちらかと言われれば、失礼ですが明らかに下手な方に入ってしまうのですけど、その下手さ加減が絶妙なのと、狙い所の面白さとで、上演前に自分が思っていたよりはずっと楽しく観れてしまいました。
ただ、一方で問題は多々あるかと思います。私の行った回は会場の空気がもの凄く暖かかったことに救われた部分が大きかったと思います。コントのネタもアイディア自体はいいと思うのですけど、それを膨らませたり観客に見せたりする工夫がちょっと足りなかったように感じます。観客への掴みの部分も含めて、もっと観客に見せるということを意識すれば、かなり面白い作品になる素地はあるのに何とも勿体ないなと思います。
本人達が意識的にやっているのかどうかは分かりませんけど、他の劇団ではなかなかお目に掛かれない独特のカラーを持っていますし、その点ではもの凄い強みを持っている劇団だと思います。ただ、そのカラーを理解できる人だけ理解できればいい、というスタンスではなく、会場に足を運んだ人全てに理解してもらうように努力する必要はあるのではないかと思います。個人的にはこの劇団のやるコントの笑いって好きな種類の笑いですし、同じ社会人が芝居をやっているという点でもがんばって欲しいとは思うのですけど…。