ONEOR8「電光石火」@THEATER/TOPS

(あらすじ)
材木屋の社長・努(木村靖司)は、かっては社会人野球の俊足バッターとして鳴らしていたが、妹の泉(富田直美)の不注意から材木の下敷きになり足を痛めたことが原因で野球を辞めたという過去を持つ。
その足の怪我を言い訳にして、ろくすっぽ仕事もせず、厄介なことはすぐ同僚や妹に押し付ける。それだけではなく、自分では何1つ決められずにすぐ人を頼る癖に、思い通りに行かないと暴力を振るう、金や女にはどうしようもなくだらしない等、どこを取っても最低な男だ。彼の周囲にいる人間は例外なく彼の自分勝手な振る舞いの巻き添えになり被害をこうむっているが、先代社長の努の父親への義理や、暴力への恐怖から、なかなか本人の前でそのことをはっきりと言うことができない。
そんなことをやっていれば、当然材木屋の経営は上手くいくはずもなく、努は同僚で工務店の主の竹田(野本光一郎)に、元妻の啓子(福島まり子)が会社の金を持ち逃げしたのを理由に、借金の保証人に無理矢理なってもらおうとする。
そんな時に、店に啓子が努に用事があって訪ねてくるのだった。
(感想)
この物語の中心に据えられたのが、実際に近くにいたらどうしようもない最低男。なので、もっと重苦しい雰囲気の舞台になるかと思ったら、意外な位観やすい作品でびっくりしました。だからといって決して軽いという訳ではなく、舞台の緩急、コミカルさとシリアスさが交互に小気味いい形で訪れるので、観ていてとってもリズミカルな感じがしたというのが、一番の要因だと思います。その辺は、演出や脚本の妙だけでなく、それを演じている役者さん達の演技がしっかりしていたということもあるのでしょう。テンポの良さだけでなく、芯がしっかりしていているイメージがあり安心して舞台を観る事ができました。
最低な中にも、彼の息子や中学生の少年とは波長があったりするところがあるように、脚本家の田村孝裕さんは、主人公の努を「いやな」奴というよりも、「子供がそのまま大人になった」奴として描きたかったのかな、と思います。コミカルな場面が多いので一見サラッと通過してしていまいそうになるのですけど、こんな子供のような人間が、少なくても本人は積極的に悪意を撒き散らしているという自覚がほとんどないままに、周囲の人間を悪意の渦に巻き込んでいく姿というのは、故意に相手を傷つけているよりもよっぽどタチが悪いです。
当然、そんな努の人間関係が平穏無事に済む訳でなく、仕方なく周囲にいた人間達が積もり積もった怒りを爆発させて、次々と彼の元を離れていきます。ただ、それでも結局は家族だけが彼の所に残り、いつの間には別の人間関係を築きあげて、相変わらず周囲に迷惑を掛けて生きていくという所で物語が終ります。努の一番の被害者だと思っていた妹の泉の「だって反面教師がいなくなっちゃうじゃん」というセリフには、思わずぐっときました。実際の社会でも、家族にはその当事者間にしか分からない、人間関係というのが確かに存在しますし、こういった関係の機微というのが上手く描かれていた場面だったと思います。
観やすかったということや、人物個々の描写があっさりしている部分あったということもあって、実は観終わった後は面白かったけど、随分と軽かったなという印象がありました。ただ、よくよく考えてみると、因果応報のラストシーンにならなかったように、その底に流れる悪意や皮肉は結構強烈だなと思います。それを、表面から露骨に観えない形で舞台にしたのが、田村さんを始めとした、この劇団の非凡な部分でもあると同時に、悪に徹しきれない優しさや甘さなのかなあ、とも思いました。