大川興業「Show The BLACK Ⅱ」@ザ・スズナリ

(あらすじ)
臓器移植の手術を受けたものは、手術を受けた後に、人格や嗜好が変わってしまうことがよくある。人によっては今まで興味のなかったファッションに目覚めたり、嫌いだった甘い物が大好きになったり、食べられなかったセロリを味噌汁の中にまで入れるようになったりする。
この物語の主人公もそんな一人。目が見えない彼は、心臓と肺の移植手術を行った後に、今までしたこともなかったボクシングがしたくて仕方がないという気持ちに駆り立てられ、とうとうボクシングジムの門を叩いてしまう。
そんな主人公が、ある日友人とともに、僅かな手掛かりを頼りに、自分の臓器のドナーを探そうと思い、それらしい男の墓を訪れる。そこで彼は、その男のかって彼女だったという女性に出会う。彼女の話しでは、亡くなった男はかってボクサーで、主人公が臓器移植の手術が行われた日に事故にあったということだった。
目の見えない彼がボクサーとして戦うのは、自分の意思なのか、それとも亡くなった男の意思なのか?
大川興業にしか出来ない、闇の中で繰り広げられる物語。
(感想)
大川興業の公演を是非一度ナマで観たいと思って取ったチケットなのですけど、自分でも本当に馬鹿だと思うのですけど、チケットを取った後に「長時間暗闇が続きますので、暗所恐怖症の方、心臓の弱い方、妊娠中の方はご遠慮ください」の但し書きを読んで、始めてずっと暗闇の中で上演される芝居だということを知りました。
開演前にペンライトを渡されたり、繰り返し事細かに注意事項の話しがあったりと、ここまで制約でがんじがらめの舞台には始めて行きました。
そんな状態の中で作り出された暗闇のなかで行われた公演だったのですけど、公演形式の奇抜さに反して、物語そのものは予想外に骨太でストレートな話しで、普段のテレビで見ている大川興業のイメージとのギャップに驚きました。大川総裁の劇作家としての懐の深さを感じました。
そんな暗闇の中で繰り広げられた公演でしたけど、公演そのものもちろんですけど、時間の経過とともに、自分の中で芝居に対する反応が変わっていくのが面白かったです。最初は暗闇の中を無理矢理見ようとムキになって目を凝らして、それが無駄だと分かると、耳で音を追いかけて、それをイメージに転化していこうとするようになります。そうしているうちに五感や芝居に対するイメージが少しずつ鋭くなり、やがてその感覚を足掛りにして、物語像を自分なりに広げていきます。舞台って、本や映画と比較して、観る人によって感じ方や受け止め方に振り幅の大きいと思いますけど、視覚が制限されている分、その幅が通常の舞台以上に大きかったですし、観る側の想像力も試されていたと思います。実は周囲のお客さんのリアクションや反応も物語のイメージを膨らませていく上で貴重な手がかりで、そういった点でも、観る側と演じる側との協力関係が通常の舞台以上に緊密で、そのことが観ている側にいい意味での緊張感を与えてくれました。
役者さんの演技の方は、暗闇の中ということもあって流石にパーフェクトとは言えませんし、見えないだけにもう少し細かい効果音にも気を配って欲しいと感じた部分はありましたけど、1つでも大きなミスをしたら公演そのものがぶち壊しになるということを考えたら、よくがんばったと思います。物語のストーリーも所々に大川興業らしい時事ネタの笑いを入れながら、目の見えない男がボクシングに挑戦する姿が良く描かれていました。ハンディキャップを持った人間を特別扱いすることが、時にはその人をかえって傷つけてしまうことがあるという事をきちんと踏まえた上で書かれていたのには好感が持てました。最後、主人公がボクシングのエキシビジョンマッチをする時に舞台が少しだけ明るくなったシーンは、あえて完全に明るくせずに、カメラのピントがぼやけたような輪郭のはっきりしない絵にしたことが最後の盛り上がりにつながったと思いますし、キャストが未公開な部分を含めて作り手の視覚に対するこだわりのようなものを感じました。