「新・夏の魔球」@全労済ホール・スペースゼロ

(あらすじ)
新米スポーツ記者のフジムラミノル(宮地真緒)は、プロ野球のタイガースを担当するトラ番。彼女は上司から「プロ野球の舞台裏」という課題を与えられ、甲子園球場のグランドキーパー一筋の父・エイジ(ほっしゃん)を取材することになる。
ところが父は仕事中にグラウンドに穴を掘ったり等、敵チームに対する子供じみた罠を仕掛けるか、タイガース狂の同僚や仲間とふざけあうばかり。小さい時に母を亡くしてから、父の虚言癖に振り回されたミノルは、全く取材が進まないということもあって、苛立ち気味。
そんな時、ミノルは絵の勉強のためアメリカに行っている、妹・ユタカ(山本早織)から帰国するという手紙とともに、母が父の姿を書いたスケッチブックが送られてくる。そこに描かれていたのは、エース「ムラヤマ」に憧れ、宿敵「ナガシマ」との対決を夢見続けている、知られざる父の姿だった。
本当の父の姿や、母とのことについて少しずつ明らかになっていくミノルに、父の友人達から驚くべき真実が告げられるのだった。
(感想)
もともとはランニングシアターダッシュが初演を行った作品を、作・演出を担当した、大塚雅史さん自身によるリメイク版としての上演になります。作品を観るのは今回始めてだったのですけど、脚本の骨格になる部分はとても良く出来ている作品で、伊達に再演を重ねていないです。エンターテイメント性の高さだけではなく、夢を追い求め続けることの大切さや、親子や父と母の家族の絆についても描かれているストレートながらも奥が深い人間ドラマに仕上がっています。登場人物のネーミングやネタの数々に野球に関する深い愛情が込められていて、野球ファンのツボを見事に突いてくれます。ホンモノのプロ野球にいま一つ夢を託せなくなってしまった今だからこそ、こういったドラマというのは逆に私のようなプロ野球ファンの心に訴えかける作品になっています。
という訳で、野球バカであればあるほど、面白い作品かとは思いますけど、サザンオールスターズの数々の曲に乗ったミュージカルタッチなシーンなど、野球ファンでない人も充分に楽しめる工夫が随所に散りばめられていました。
ただ、いろいろと詰め込みすぎたせいで、公演時間が休憩時間なしの2時間45分になってしまったのはいかにも長かったですし、果たしてここまで肉付けして、わざわざこの時間にする必要があったのかというのは疑問に感じました。今回は、スペースゼロをいう比較的大きな舞台での公演だったので、幅広い層に受け入れられることを必要以上に意識してしまったのが、いい方向と悪い方向の両方に出てしまったように感じました。
主演のほっしゃんさんは、始めての舞台ということもあって、一人のシーンになると芝居にアラが出てしまったりしてしまった部分を感じてしまった部分はありましたけど、配役がピタリとはまったのと、声を嗄らしながらの熱演で雰囲気の良さが抜群でした。最初にキャスティングを観た時は、個性的で面白いと感じた一方で、このバラバラのメンツで果たして公演として成立するのだろうかと心配だったのですけど、私が行ったのが最終日だったということもあるのでしょうけど、思った以上にまとまりのある舞台になっていました。演技については、正直首を傾げたくなる役者さんも若干いましたけど、ほっしゃんさんやヒロイン役の宮地真緒さんだけでなく、迫英雄さんや腹筋善之助さんを始めとした脇がしっかり固まっているので、観ていて軸がしっかりしているような印象を受けました。この辺はキャスティングだけでなく、どのシーンにどの役者さんを持って来るかという演出の妙もあったかと思います。
今回は、必要以上に長かった感はありますけど、全体的には楽しめた公演でした。いろいろな部分でプロデューサー公演の面白い部分と、問題のある部分の両面が出たように感じました。