イキウメ「PLAYeR」@サンモールスタジオ

(あらすじ)
1人の女性が行方不明になってしまった。彼女の行方を捜す手がかりは留守番電話のメッセージだけ。そこには何か混線したような雑音のなかから奇妙な音がして、その電話から聞こえてくる声は、間違いなく「彼女」の声だった。
彼女の行方を捜す弟は、姉弟の知人であり、かって彼女と付き合っていた刑事に手がかりの留守電のメッセージの入った携帯電話を渡し、彼女を見つけてくれるように依頼する。
手掛かりを頼りに彼女の行方を捜すが、やがて彼女は遺体になって発見される。
その途中で行き当たったのが、生前彼女と親交があったという1人の男と、彼が主宰する瞑想セミナーだったのだった。
(感想)
来年の3月までなかったのに急遽決まった公演で、とても嬉しかった半面、私の行った日は1日3公演の2公演目、自分も昼に別の公演を見た後の2公演目というとても過酷なスケジュールの中での観劇だったので、作品のクオリティや自分の体力に一抹の不安があったのですけど、結果的には全くの無用な心配でした。
瞑想セミナーとか、死後の世界とかうさんくさい言葉が物語のとても重要なキーになるので、人によっては入り口の段階で拒絶感やとっつきにくさを与えるので必ずしも万人向きの芝居であるとは言えません。ただ、一度その世界にハマってしまうと観る人間を捉えて離さない不思議な魅力のある劇団です。
ストーリーはもの凄く端的に言ってしまうと瞑想セミナーに参加した人間が、死を超越した世界にたどり着くという話しです。物語の言葉を借りると、表面だけ見ればそれこそ「コンビニで売っている300円の文庫」にも出てくるような話です。
この物語の登場人物で行方不明の女性を探す刑事の反応も、最初のうちは「そんなことはありあない」とか「何かのトリックにちがいない」といった我々一般人の平均的な反応と同じです。それがやがて信じられない出来事を目の当たりにすることによって、「自分の見たもの」と「自分の信じている理性」との間の板ばさみに強烈に悩まされることになります。私達の、常識や経験というものはしっかりしているように見えて概してとても脆いものですけど、この作品の世界にいると、非常識と常識の垣根とがぶち壊されて、いつの間にかその境界線上に放り込まれたような気分になります。
そして、そういった気分にさせてくれた一番の要因は、アイディアの見事さと、シンプルながら一つ一つまるで既成事実を載せていくように丁寧な物語づくりにあるかと思います。死を超越した世界と現在自分たちが存在する世界とをつなぎ、死を超越した世界の人間を現在の世界に具現化する再生装置ともいえる「プレイヤー」の存在、そして「プレイヤー」が増えて、その人についての記憶が鮮明になればなるほどそのひとの言葉を鮮明に再生できるという、この2つ設定が特に抜群に面白かったです。
今回については、前川知大さんの脚本や演出はもちろんですけど、それを高い緊張感をもって演じきった役者さんたちの力も、舞台を面白くした大きな要因だったと思います。上昇気流にある劇団というのは得てしてこんな感じなのでしょうか、芝居に対するモチベーションの高さというのが観ていて分かり、それが演技にものすごくいい方向にプラスになっていましたし、劇団全体の一体感というのがものすごく伝わってきました。
前川さんの描く世界や、脚本の面白さからファンになった劇団ですけど、今回は脚本はもちろんですけど、それ以外の部分の面白さというのを感じさせてもらいました。