ペンギンプルペイルパイルズ「道子の調査」@ザ・スズナリ

倉持さんが脚本を担当した「開放弦」の公演を観に行けなかったので、こちらの方の公演に行って来ました。不可解な部分が多いのですけど、とても上質な世界が描かれていて、首を傾げつつ、大笑いしながら、ところによってはうなってしまいながら観させてもらいました。私が観に行ったのは東京公演の楽日だったので、最後に役者さんの紹介と作・演出の倉持裕さんからの挨拶があり、大阪公演のことを控えめに宣伝していました。
ところで、私の行く公演や今後行きたい公演になぜか加藤啓さんが良く出演しています。別に加藤さんが出演しているという理由で観にいっているわけではないのですけど……。(もちろん好きな役者さんの1人ではありますけど)
演技も笑いもできる2枚目キャラということで、話題の公演の客演に引っ張りだこだということでしょうか。大阪公演が終了するまではそれ以外のことは考えないと言っていましたけど、10月の拙者ムニエルの公演のチケットを取ってしまった人間としては、そろそろそちらも頭の片隅にいれていただけるとありがたいです。
(あらすじ)
ある場所に左遷同然に飛ばされ、一人の人物を探しだすことになった調査員・道子(伊藤留奈)。彼女が調査することになった女性は6年前に失踪し、その時にも別の調査員の女性・砂恵(ぼくもとさきこ)が派遣されたのだが、女性が見つからずに、最後には砂恵自身までもが行方不明になってしまったのだった。
道子は6年前に砂恵が調査した、失踪した女性の知人達たちの証言を頼りに調査を進めていくのだが、彼等の口から出てくるのは、なぜか砂恵についてのことばかりだった。
(感想)
物語は基本的に、道子が6年前の調査の証言者から話しを聞きだす短めのシーンと、証言者が砂恵とのやりとりを回想する長めのシーンとが交互に展開します。道子が調査しているのは、行方不明の女性のはずなのに、その女性のことについては証言者が話す砂恵の事を通じてしか知ることが出来ません。この、道子→証言者→砂恵→行方不明者という図式がとても面白いお芝居でした。
証言者が言っていることそれぞれには食い違いや矛盾はありません。ただ、砂恵というフィルターを通す事でしか語られていないうえに、妙にしっくりとし過ぎて逆に妙な違和感を感じたり、女性が砂恵がなぜ行方不明なったのかと言う部分にはまったく触れられずに物語が進行していくので、観ていて、輪郭はしっかりしているにも関わらず、肝心の部分は全くはっきりとしない、そんな不思議な感覚を抱きながらお芝居を観ていました。もの凄く言葉のたとえが悪いのですけど、映像そのものはしっかりしてるのに、一番大切な部分はモザイクが掛かっている、そしてそのモザイクごしの映像が分からないと物語の全貌がはっきりとしない、そんな感じがしました。
全体で上演時間は2時間15分位だったのですけど、大部分がこうした道子や砂恵と証言者とのやりとりに費やされてします。淡々と進むので、普通でしたらどこかで退屈で場が持たなくなるシーンがあるものですけど、そのように感じさせない物語づくりが出来るところに倉持裕さんの上手さを感じました。特に、登場人物たちの会話のやりとりが抜群に上手いですね。淡々としながらも丁寧に積み上げられているストーリーも全体的に上質で、わざとよく分からない部分を作ったり、核心を遠ざけている部分があるにも関わらず、それを受け入れながら見せてしまうのは流石だなと思いました。
倉持さんの世界を演じる役者さん達も、しっかりとした役者さんが多く、今回の舞台のザ・スズナリよりも大きな会場で上演しても立派に通用するレベルにあったと思います。特に、人はいいけど、他人の言う事に引きずられてしまう砂恵を演じたぼくもとさんと、とげとげしくてきつい嫌な女だけど、物事を客観的に見れる、道子を演じた伊藤さんの対照的な演技は観ていて面白かったです。特にぼくもとさんの砂恵は見事なはまり役で、ほかの人が演じていたらここまでいい芝居になってなかったように感じました。
全体的にとても見ごたえがあって面白い公演だったのですけど、作り手だけでなく観ている側も丹念に物語を追いかけないと面白さが半減する公演だったので、疲れ気味だった自分にとっては、必要以上に途中でしんどい思いをしました。今度、この劇団の公演を見に行くときには、もっと心身にゆとりを持って観に行きたいなと、反省しました。