RIDEOUT produce「レコンキスタ」@シアターブラッツ

今年の6月に観に行ったInnocence Shpereの西森英行さんが作・演出を担当したプロデュース公演になります。今回は全く独立した3つのオムニバス作品でした。形こそ異なりますけど、それぞれの物語には「死」とその場所に残された思いというテーマが通底しており、全て悲しい結末なのですけど、それぞれにどこか一抹の救いのようなものが感じ取れました。そこら辺に、西森さんの人間に対する見方とかが垣間見えるように感じました。
舞台装置もあくまでシンプルに役者さんの個性と力量勝負の感があった舞台だったのですけど、ここまで力のある役者さんが揃うと下手な小細工をするよりその方が好感がもてましたし、物語もコンパクトでありながら密度が濃くて、観応えのある公演でした。
(あらすじと簡単な感想)
・1)命の露
やる気を失い、仕事がすっかり来なくなってしまった弁護士・佐々木(山岸拓生)のもとに、女性から一本の電話が掛かってきた。彼女の夫は5人の人間を殺した容疑ですでに死刑が求刑されており、その再審請求のために方々の弁護士のもとを訪れたが断られ、万策尽きて彼に電話を掛けてきたのだという。
死刑囚を救おうという気持ちは毛頭無く、ただお茶濁しの軽い気持ちから依頼を引き受けた彼が、最初の面会で会った死刑囚。彼は佐々木の高校時代に所属していた野球部の先輩・源田(中井出健)だった。

・以前、Innocence Shpereの公演に行った後に、アフタートークで西森さんが「世の中には安易に結論の出ないことがあり、分からないものは分からないという事を忠実に出す。」というようなことを言っていましたけど、まさにそれを地で行っているようなお芝居でした。高校時代の尊敬する先輩像を重ね合わせ何とか彼を救おうとする佐々木、それを頭から否定し救済を拒絶する源田。表面に事実とし浮かびあがってくるのは「自分が5人の人間を殺した」という証言だけなのですが、真実は源田の心の中のだけにあり、それをあえて語らないことにより、真実を知ることの難しさ、語ることのできない部分があることが確かに存在する事を語っているように感じました。
個人的には、3つのストーリーの中で一番好きな物語で、山岸さんと中井出さんのガッチリとしたやりとりがものすごく見ごたえがありました。

・2)彼女の棲む場所
突然交通事故に会い亡くなってしまった、妻の葬儀が終って自分の部屋に戻った妻とその友人達。ショックから立ち直れずに、酔っ払って彼女の死をまぎらわせようとする夫は友人達に向かって自分の気持ちを吐露する。
「彼女は僕みたいなつまらない男と一緒で本当に幸せだったのだろうか?」

・亡くなったしまった人について語る人、亡くなってしまって語りかけることの出来なくなってしまった人。語りあうことが出来なくなってしまったがために起こってしまった夫と妻とのすれ違いを描いた物語で、前の作品と一転してちょっとコミカルなタッチの作品に仕上がっています。不器用だけどマジメで一途な夫役を演じた川本裕之さんの不思議な存在感がある演技を軸に、コミカルさとシリアスさとがいいバランスでブレンドされた作品でした。

・3)ピエタ
舞台は未来の宇宙。恩赦と引き換えに任務を与えられ、宇宙に飛び立った5人の死刑囚たち。
その中の1人、イセヤ(岩淵敏司)にはどんなことがあっても生き抜かなければならない理由があった。もう一度、あの人に出会うために……。

・派手な照明を多様し、アクションシーンをふんだんに盛り込んだSF活劇。Innocence Shpereの作品の「動」の部分をぎゅっと凝縮したような作品でした。基本的には最後に明らかになる、意外ではっとさせられる真相の切れ味の鋭さのワンアイディア勝負の作品だと思いますけど、そのように感じさせないのは、物語の世界がきっちり描かれているのと、結末に到るまでの伏線の張り方が上手いからでしょう。ただ、時間が短かったせいか、やや物語の流れが唐突に感じたり、説明的なセリフで場面を表現した部分があったように感じたのが残念でした。