くろいぬパレード「ホームドラマ」@中野劇場MOMO

土曜日に行った公演の感想になります。雨と事故により電車が停まったため2時の開演が30分ほど遅れてのスタートになりました。主宰のイケタニマサオさんがお詫びに出てきたり、場をつなぐために役者さんたちが、急遽前説を始めたり、帰りにポストカードを頂いたり、中野駅で立ち往生したために観劇することになった私としてはかえって申し訳ないと思ってしまいました。正直、前説はあんまり面白くなかったですけど、お芝居の方はなかなか良くできていました。
(あらすじ)
舞台は10年以上前のバブル期のとある家の台所、全く似ていない三つ子の兄弟、一(岩淵敏司)、二(高山和之)、三(原朋之)。三人の暮らすその家には母親はおらず、父親(鈴木ゆうじ)も滅多に帰ってこない。父親の子を子とも思わない威圧的で冷酷な態度に対して、長男の一は強い反発を覚え反抗する。
そんな家に何の前触れもなく父親が2人の女性を連れて帰ってくる。彼女達は、父親の妹(島崎裕気)とその娘の京子(中村真知子)と名乗り、父の話だと彼女達は今日からこの家に住む事になったらしい。
更に、父の周囲には、父の仕事仲間だというとても堅気には見えない男が、たびたび家を訪れる。彼等兄弟の周囲はにわかににぎやかにかつ不穏になっていくのだった。
ちょっぴり甘くて、そして残酷な、少年とその家族の物語。
(感想)
最初の前説の影響もあったのですけど、台所の一室のセットといい、冒頭の兄弟三人の馬鹿丸出しのやり取りといい、最初はかなりゆるめのホームコメディを連想していたのですけど、父親が登場した時点でそんな雰囲気はなくなりストーリーは全く別の方向に展開していきます。基本的にはコメディ作品なんですけど、イトマン事件の許永中を連想させる父親が、バブル崩壊を引き金に段々と追い詰められていったり、急に家に同居することになった母娘の存在によって、物語は社会的メッセージを交えたシリアスな家族劇の様相を見せ始めます。ただの安易でコミカルな家族劇に流されなかったあたりには、この劇団の面白い所だと思いました。
そして周囲の状況の切実さにも関わらず、何も知ろうとも知らされてもいない、一が段々と父親や母娘の真相を知ってしまうプロセスや、心の内面がとてもよく描けていました。好きな女の子に対して素直になれず厳しくあたってみたり、京子に対して根拠も目算もないのに「お前は俺が守ってみせる」と言ってしまうあたりは、青臭くてでベタだよなあと思いながらも、自分の思春期の頃と少しダブってしまい、途中からは「分かる、分かる」って思いながら観ていました。
役者さんも、そんな主人公・一を演じた岩淵敏司さんを始めとして、抜群の存在感があった父親役の鈴木ゆうじさん、内気でオドオドしながらも父子2人を振り回す京子役の儚げながらも色気のあった中村真知子さんの3人を始めとして、しっかりと演技のできる役者さんが揃っていて、安心して舞台を観ていられました。
全体的に切り口は面白かったですし、役者さんのレベルも高く、ストーリーも丁寧に作りこまれていたのには好感は持てたのですけど、ただちょっと残念だったのは、主人公の一の描きかたが上手いと感じた反面、一と周囲の人間関係を上手く掘り下げ切れていないように感じたことです。そのためせっかく家族について、親子について面白い切り口から描かれいるにも関わらず、その切り口に対する作り手の側が作品に込めたメッセージというのを上手く消化して、観る側に伝え切れていないように感じました。良くできていただけに、その辺がもう少し踏み込むことができたら、観る側の心の中にもっと引っ掛かりの残る作品になっていたのが惜しまれました。