黒色綺譚カナリア派番外公演「少女灯」@ザムザ阿佐谷

2日に行った公演の感想になります。
(あらすじ)
舞台は昭和40年代のケーキ工場。その工場の社長の姪に当たる、少女・緋色(牛永里美)は、訳あって海外に住む父と離れて、その工場の住み込み女工として働いていた。
いとこ達のつらい仕打ちにもめげずに、父の帰国と、彼女達への復讐の日を夢見ながら、同僚の少女・ドドメ(伊藤美穂)や雀茶(吉富亜希子)らとケーキのローソクづめに追われる毎日を過ごしていた。
そんな時、突然、ケーキ工場の閉鎖と、彼女達女工全員の解雇を言い渡される。行くあてもなく途方にくれる緋色たち。そんな彼女達に更なる追い打ちをかけるような悲劇が襲い掛かるのだった。
(感想)
行く前は楽しみにしていた半面、世間からはアングラだとか少女趣味とか評されている劇団なだけに、主宰の赤澤ムックさんの描いた世界を見せるだけの舞台にならないかどうか心配でした。確かに最初の部分は、時間や人間の関係が散漫でバラバラな上、それに対する説明が全くないのでストーリーが上手くつかめないために、観ていて分かりにくいことこのうえなかったですし、役者さんの演技も上手くかみ合っていなくて観ていてあぶなっかしいことこの上なかったです。
高貴の生まれの人間が落ちぶれてその身内に苛められるという図式といい、舞台のところ所に挟み込まれる過剰に詩的な長いセリフ回しといい、舞台のセットや衣装といい、随所に少女趣味的ともいえる赤澤さんの趣味が舞台に反映されています。個人的にはこうした少女趣味的な感覚って全くと言っていいくらい理解できないのですけど、それでも中盤以降は楽しかったのは、思いのほかストーリーの骨格がしっかりしていて、物語を見せようという姿勢が前面に出ていたからだと思います。特に最初は不親切で分かりにくいと思っていたバラバラな時間配置が、途中からは実は巧妙に仕掛けられた計算づくだったことに気が付きます。隙間だらけだったパズルのピースがはまっていくごとに少しずつ明らかになっていくストーリーの組立てには、おぼろげながら全貌が見えてくるに従って観ていて思わずゾクゾクしてしまいました。物語の流れから、主人公たちがどこまでも転落していくしかない結末に進んでいく予感は抱かせてくれるのですけど、その転落の仕方が自分予想するものの予想の斜め上をいっていました。
愛憎劇で主人公を始めとして性格の歪んだ登場人物がほとんどの割りに、あまりドロドロしたものを感じなかったのは、登場人物達の愛情のベクトルがほとんど一方向(早い話、片思いがどこまでもリンクしていくコミックの「ハチミツとクローバー」の状態)で話しが進行していくことと無縁でないように思います。その相手に対する一方的ともいえる愛情の歪みが、ドミノ倒しのように次々と悲劇を生んでいきます。ばらばらに配置された時間を縦糸に、この人間関係の歪みが生み出す悲劇を横糸にして紡ぎだされることによって、物語に厚みがでてより一層面白い話になったように感じます。
役者さんたちも最初のうちは危なっかしいなあと思いながら演技を観ていたのですけど、途中からは舞台の雰囲気と役者さんの演技とがピタリとはまったきたように感じ、安心して観る事が出来ました。あくまでも個人的な感想ですけど、最初と観終わった後とで比較して、いい意味で印象が変わった公演でした。食わず嫌いは良くないということでしょう。