宮沢章夫「演劇は道具だ」

5月に遊園地再生事業団の公演を観に行った時に買った本をやっと読み終えました。
実は一度この本を読み終えたのですけど、肝心の何が言いたいのかという部分がいま一つピンと来なかったため、もう一度読み返してから感想を書いています。文字の大きや読み易さと、内容の理解度とは必ずしも一致しないということを痛感させられました。シリーズそのものが中学生向きとなっていたので簡単に読めるだろうとタカをくくっていたのですけど、分かったつもりになるのは簡単でも、しっかり理解するには結構手ごわかったです。見た目に騙されちゃいかんということでしょう。侮れません。
この本のタイトルこそ「演劇」は「道具」だ、となっていますけど、この本でも指摘されているとおり、「じゃあ演劇ってなんだ?」と言われても、古今東西さまざまな人間がこの問いに挑戦したにも関わらず、万人が納得するそれらしい答えがいまだに見つかっていません。実は「道具」だと簡単に言いきれない事が、「演劇」を語る時にどこかあやふやで分かりにくいということにつながっているではないだろうかと思います。私みたいなド素人が芝居を演じても、それっぽく演じられてしまいますし、芝居を観ても的を得ているかどうかは別にして、それなりの能書きは語れてしまいます。反面、極めようとするとどこまでも奥行きがなくキリがない、演劇のこのような性質と、演劇というものを定義することの難しさとは無縁でないように思えます。
まあ、取り留めのない事を書いてしまいましたけど、個人レベルの話しになると、「何故、自分は最近演劇を観るということに興味を持ってしまったのだろうか」という問いを考えるときに、この本がいい手がかりになりました。結局の所、自分は歴史や本などを通じて人間というものに興味があるけど、一方で理解できないというコンプレックスが根底にあり、今度は演劇というものを通じて考えてみようと思ったことも一つの理由なのでしょう。(もちろん単純に娯楽として面白いという部分が大きいのでしょうけど)
五感を研ぎ澄まして周囲を見ること、固定観念に縛られずモノゴトに対して常に疑いを持って接する事、ありのままで立ち続けるための強さを持つこと等、この本で語られていることは、演劇の世界だけでなく、日常生活で他人や自分について考えていくうえでも一つのヒントになるのではないでしょうか。
ISBN:4652078188:DETAIL