G-up presents「散歩する侵略者」@新宿スペース107

昨日行った公演の感想になります。去年の10月にイキウメでやった舞台の再演だったそうですけど、私は初見になります。今回は脚本家の前川知大さんの描くストーリーを楽しもうと思って、できるだけ予備知識を持たないようにして観に行ったのですけど、結果的にはそれがいい方向に作用したこともあって本当に面白かったです。前川さんの所属するイキウメの次回の公演が本当なら来年の3月までなかったのですけど、急遽8月末〜9月頭に公演が決定したそうです。時間が許す限り観に行きたいです。

(あらすじ)
今にも戦争が起こりそうな不穏な空気を抱えている基地がある以外は、何もない街。その街の海辺で、1人の男が保護された。死んだ金魚を手に持っていたその男が妻の元に戻った時、男は言葉の持つ表面的な意味は理解できたが、言葉の「概念」を失っていた。
そんな彼が妻に向かって言う、
「自分は「概念」を奪う宇宙人で、地球を侵略するためにやってきた。自分のガイドにならないか」と。
彼が人の概念を奪った時、奪われた人間は一体どうなってしまうのだろうか?そして、自称宇宙人の彼は一体何者なのだろうか?
何気ないと思っていた日常が、気が付かないうちに何者かに侵略され足元から崩されていく……。
(感想)
3月に行ったイキウメの公演を観た時にも感じたのですけど、前川さんの描く物語は、まるで上質なSF小説を舞台の上で観ているような感じがして、観ていて本当に面白いです。この人がSF小説とか書いたら結構面白い作品になるのではないかと思います。
今回も、記憶や言葉ではなく概念を奪うというアイディアがひとひねり利いててものすごく良かったです。そのアイディアを元に1つ1つ丁寧にストーリーや伏線が積み重ねられていて、平穏な日常が少しずつ侵食されていくような気分が良く出ていました。
役者さんを集めたあとに演目を決めたのか、演目を決めたあとにキャストを決めたのかその辺の経緯は良く分かりませんけど、ひとくせある個性的な役者さんが揃っていてアクのある役柄に上手くはまっていたように感じました。
設定こそ突飛ですけど、ストーリーや人間関係の輪郭はしっかりしていたように思います。これは赤堀雅秋さんの演出によるところが大きかったのかなと思います。それによって宇宙人というあまりにもリアリティのない現実に直面した時に、実際に起こっているにも関わらず上手く適応することができない姿や、概念を失ってしまった人間がどうなってしまうかについて、他人との関係を通して描くことによってより鮮明になったように思います。サイドストーリーで基地に向かってミサイルが射ち込まれたり、戦場に向かって飛行機が飛び立ったりするなど、宇宙人が概念を奪っている中で、海の外では戦争が始まったことが間接的に描かれています。そのシーンのリアリティのなさが、宇宙人が侵略するというリアリティのなさと重なっていき、いつのまにか日常が切り崩されていく姿が増幅されていたような気がします。その人がある事柄をリアルなものとして実感できるかどうかというのは、結局の所、その人がその事柄を概念として捕らえることができイメージできるかどうかに掛かっていて、そうでないものについては、この物語の登場人物達のように、実際に起こっていても、どこか自分とは関係のない事としてしか出来事を捕らえることができないのでしょう。
最後に、概念を奪った主人公がもとの世界に戻ることを妻と話しをしていて、愛の概念が欠けている事に気が付きます。その時に、妻が「このままいなくなるのだったら自分のなかにある愛の概念を奪ってくれ」と頼むシーンがあります。このシーンにはとても感動したのですけど、一方で観る側にある程度の結論を委ねるラストシーンについてはいま一つ釈然としない部分も感じました。前述したように物語の枠が比較的しっかりしているので、最後にあえて輪郭をぼやけさせるシーンを持ってくるのは、テクニック的には上手い終らせ方だなあとは思います。ただ、あくまでも個人的な意見なのですけど、愛の概念を奪われた妻の姿を描いた以上は、愛の概念を奪った夫がどうなるかという姿も描ききって欲しかったように思いました。
ただ、ラストシーンについてはあくまでも個人の好みの問題なので、作品の良し悪しとは関係がありませんし、全体的にはとても楽しく観させてもらいました。