新国立劇場演劇「やわらかい服を着て」@新国立劇場小劇場

(あらすじ)
廃工場を拠点に活動を行うNGOグループ「ピース・ウインカー」。周囲の無関心や無理解に苦しみながら、戦争や貧困・環境問題に目を背けずに、自分たちに何ができるどうかと考え、活動に取り組む彼等。仕事とやりたいこととの両立や、人間関係や恋愛感情のもつれなど、若者だった誰でも抱える問題に悩み、理想と現実の板ばさみに悩み、そして苦しんでいく。
そんな彼等の日常の活動を、2003年のイラク戦争突入直前から現在までの3年間の軌跡とともに2部構成で描いた青春活劇。

(感想)
おそらくこの作品にはモデルになったNGO団体があって、作者の永井愛さんがかなり入念な取材を行って、それに基づいて作られたのでしょう。イラク戦争について人並み程度には知っていると思っていましたけど、自分にとって都合のいい部分ばかり見ていて、こうやってNGO活動をしている人達がいるということについてきちんと考えたことがなかったなあ、ということに少しだけ反省しました。
ただ、劇中で語られている登場人物達の言葉に共感できたかというと、残念ながらそれは別の問題だったように思えます。NGO団体のリーダー・夏原役を演じる吉田栄作さんを始めとして、皆さんものすごく熱のこもった演技をしているのは観ていてとても良く伝わってくるのですけど、彼等が熱演すればするほど、彼等の発する言葉がどこか空虚でそらぞらしいものに感じてしまう。少なくても第一部が観終わるまではそう思っていました。
休憩中に何故だろうかとずっと考えていたのですけど、それは仕事を転々としたり職場の仲間に冷たい目で見られたり、そんなつらい目に会いながらも彼等が活動を続けていく、その「なぜ」という部分が見事なくらい欠落しているからではないだろうか、と思いました。彼等がNGO活動を始めた「なぜ」という部分を前面に押し出せば、安易ではありますけど物語をもっと簡単に観る側のほうに持ってくることが出来るのに、この作品ではあくまでも彼等の活動を追いかけることによって物語を作ろうとしています。「まるでこの物語の登場人物のように、わざわざつらい道を行くなあ。このあとどうやって物語を展開させるのだろうか」という興味を抱きながら第二部を観る事になりました。
第一部がイラク戦争突入前後の彼等の活動の事を描いていたのに対して、第二部では舞台はその後の活動についての物語に移っていきます。第二部では彼等の恋愛感情や友情のもつれから人間感情にヒビが入り、そのためにグループの存続そのものの危機が訪れ、現実を理想の間で悩む若者達の群像劇の様相を呈してきます。粟野史浩さんが演じているメンバーの1人・大槻が感情のもつれから、メンバー達を傷つける発言をして、それに激高した夏原が殴りかかろうとするシーンがあったのですけど、そのシーンで大槻が言った「暴力ではなく話し合いと言っている人間が暴力を振るおうとしている。あんたのやっていることなんてただの偽善じゃないか」というセリフ(うろ覚えなので、そのままではありませんけど)には思わずぐっときました。世界の困っている人達を助けたい、その気持ちは嘘いつわりのないものですけど、彼等を救うための活動が自分の周囲の人達の不幸につながってしまう。そんな矛盾を突きつけられたときに果たして人はどうすればいいのか?結論の部分ではうまくまとめてはぐらかされたような気分になりましたけど、その切り口の鋭さには、ただ単にNGO活動を描いた作品とは一線を画した一筋縄ではいかないモノを感じました。
個人的には、現実と理想に板ばさみになっていく若者達の人間関係を描く物語として考えると、とても良くできているとは思いますけど、NGO活動に対するメッセージについて、まるでどこかの政治団体ステレオタイプなスローガンを聞いているような気分になり、どこか自分たちの切実な問題として捕らえることのできない空虚さを感じてしまったのだけが残念でした。