文学座+青年団自主企画交流シリーズ「地下室」@アトリエ春風舎

先週も「チェンジングルーム」を観に行ったし、今週も行くっていうのもなんだかなあと思いながらも、結局2週間連続でシリーズの公演を観に行くために、2日連続で有楽町線に乗ってしまいました。始めて行った場所だったので建物の場所が良く分からずに素通りしてしまったりして道に迷ってしまいましたけど、何とか無事に辿りつくことができてほっとしました。
正直、自分の好みからいうとあまり好きなタイプのお芝居ではなかったのですけど、完成度自体はとても高く、良く出来ていたがために公演が終った後もしばらくの間まとわりつくような「いや〜な」感じがなかなか取れずに苦労しました。おススメの作品ではあるのですけど、後半は下手なホラー小説よりもよっぽど怖い作品なので、興味はあるけど少しテンションが低いという方は、覚悟して行った方がいいかと思います。

(あらすじ)
倉庫ともバックヤードとも付かない、なんとなくジメジメした感じの場所。そこは自然食品店の地下室で、そこでは上の店で売っている水や野菜や化粧品を作っていた。その店では店員達が住み込みで働いていて、店長の息子が地下室の奥にある鍵の掛かった部屋で体内の毒素を綺麗にする水の素を作っていた。そこでは店員達は店長に絶対服従だったり、社員には変な「儀式」があったり、外の人間から見たら、どこかおかしい彼等独特のコミュニティを作り上げていた。
そんな店に、なんの前触れもなく住み込みで働きたいという1人の女性が現われる。彼女の出現がきっかけで、それまで確固で崩れるはずがないと思っていた彼等の関係に、ほころびが生じていくのだった......。

(感想)
最初はどこで何が起こっているかもあやふやな中、人間関係も良く分からずに、淡々とし過ぎる位静かにストーリーが進んでいきます。演劇独特な大きな発声もしぐさもなく、まるである人の日常生活を覗き見しているような印象を受けてしまう感じのするくらい自然な感じでした。そんな静かで自然な雰囲気の中にこれでもかという位、悪意や皮肉が詰め込まれています。静かで淡々としている分だけ、確固なように見えて実は微妙なバランスの上で成立っていた人間関係が崩れていくさまや、自分自身に確信が持てないために人を攻撃する事で自分たちが正しいと信じて疑わない人格のゆがみや、善意の裏に張り付いた悪意などといったものが、タチが悪いくらい心の中をジワジワと侵食しているような気分になり、「こえ〜」と思いながら観ていました。笑いのシーンも所々あったのですけど、何かのパロディなんだろうということは何となく分かるのですけど何のパロディなのか良く分からなかったのと、笑いの裏に隠された悪意というのが透けて見えてくるので、自分の中では「面白いんだけど洒落になっていないんで笑っていいのかなあ」と感じた部分もあったりして上手く笑うことができませんでした。そういった点では、観る人によってハードルの高さが設定されていて、演劇を良く観ている人の方が面白いお芝居なのかもしれません。それでも、私みたいな初心者でも構成の緻密さと人間の感情の多面性をえぐりだすようなストーリーと演出の凄さは伝わってきました。
ここに出てくる登場人物達のゆがみや悪意に怖さを感じた一方で、彼等の上に起こった出来事というのは決して他人事ではないように思えました。どこか不安を抱えながらも明確な拠りどころが欲しい心理や、「人間っていうのは多かれ少なかれゆがんでいる部分があって、まともな人間なんているわけがない」という不安を心の片隅に抱えながら,自分を正常な側の人間に置きたがってしまう所等は、私達が日常抱えている不安や二面性といったものを、舞台を異常な場所に置き換えることによってデフォルメしつつえぐってくれるように思えました。脚本・演出を担当している松井周さんの非凡さとそれを自然体で演じきった役者さん達の演技には舌を巻きました。