文学座+青年団自主企画交流シリーズ「チェンジングルーム」@こまばアゴラ劇場

文学座青年団の若手が主体になって行われる自主企画のシリーズで、5月〜6月にかけて6公演あるものの中の1公演になります。最初は、時間があったら別の公演を観に行こうと思っていたのですけど、この公演で取り上げられる演目のテーマがラグビーだったため、学生時代のラガーマンの血が騒いでしまい思わずこちらの公演の観に行くことに変更してしまいました。ですから、演劇初心者としてよりも元ラガーマンの視点で今回の公演を観てしまっています。
このお芝居は、元々は1970年代でイギリスで公演されたものだそうです。大まかなストーリーとしては、イギリスの炭鉱の街にあるラグビーのクラブチームの、試合が始まる前から終了した後までの更衣室(=The Changing Room)を舞台に、それぞれが違った人生を送りながらもチームの勝利に向かって一つになっていく男達の人間模様を描いた作品です。
脚本がイギリスで書かれたものということもあって、全く説明なしにイギリスの風土や舞台設定が出てくるのがお芝居を見る上でやや分かりにくかったり、日本人の俳優がイギリス人のキャラクターを演じているのですが、それがやや不自然だったりしたこともあり、最初の内はお芝居の本筋とは関係のない細かい部分が気になってしまったため、何だかいま一つでした。これについては、自分の知識や教養のレベルにも多々問題があったのですけど......。舞台設定を日本に変えてみたり、時代設定をもっと今に近づけてみたらどうかとも考えてみたのですけど、物語の深い部分の設定に関わってくる問題なので、そこをいじったらこの作品はもはや別の物語になるような気もするので、これはこれでいいのかなあとも思いました。ただ、ラグビー用語ですとか選手間の言葉のやり取りとかが、お芝居の上なので仕方ないというのは分かってはいるのですけど、「プレーヤーだったらこういう言い方はしないよなあ」って言いたくなる部分が所々あったので、脚本を翻訳するレベルの段階でその辺は修正できないのだろうか、とも思いました。
そういった細かい部分ではいくつか気になった部分はありますけど、全体として観た場合は、更衣室での出来事が語られていて試合のシーンが全くないにも関わらず、まるで会場にいるような臨場感があり、良かったです。特に、試合前の着替えている所から段々と試合に向かってチーム全体が高まっていくシーンや、ラグビーの更衣室の男くささや、汗や泥にまみれた所や、更衣室での猥雑で騒がしい所なんかは、昔のラグビーをプレーしていたころを思い出してしまいました。メインのセリフを喋っている人間を前面に出しつつ、そのバックで選手役の役者さんひとりひとりが比較的自由に会話したり、動きまわっている演出が、試合前の更衣室のシーンの雰囲気を出す上で効果的だったと思います。
さらに良かったのが、試合中のハーフタイムで選手達が更衣室に戻ってくるシーンがあったのですけど、このシーンが良かったです。後半に向かってチームが勝利に向かって一つになっていく熱気というのが伝わってきましたし、試合前は綺麗だったジャージがドロドロになって更衣室に戻ってくるという思い切った演出が、この場面を盛り上げるのに大きな力になっていました。
そして、観ていて上手いなあと感じたのが、選手が更衣室にいる時と試合中で用具係を始めとしたほとんど数人しかしないシーンを作ることにより、動と静とのコントラストがしっかりと付いている事です。選手達がいない中、試合にも興味がなくただ淡々と自分の仕事をこなす用具係の存在がこのお芝居のいいアクセントになっていますし、後半の試合中に選手の1人が鼻を骨折して更衣室に運びこまれるシーンを間に挟むことで、試合のシーンが入っていないのにも関わらず間接的に試合の激しさが上手く出ていますし、お芝居全体を見渡してもちょうど中だるみしやすいいいところでこのシーンを持ってきたあたりはさすがだなあ、と思いました。
細かい部分では色々と引っかかる部分がありましたけど、脚本のストーリーそのものの面白さと、かなりの部分を役者さん個々の個性に委ねながらもポイントではかなり思い切ったことをした演出などのお陰で、全体的としてみれば楽しく観ることができました。