寿団プロデュース「おとこたちの そこそこのことと ここのこと」@萬スタジオ

実は、以前別の公演に行った時にこの公演のチラシをもらっていたのですけど、そのチラシがいま一つ地味めで内容が伝わりにくかったのと、男ばかり8人(それも渋い人達ばかり)というビミョーなキャストのために最初は行こうとは全く思いませんでした。それでも、たまたま入っていた予定がなくなってしまったのと、TEAM発砲・BE・ZINの平野勲人さんと工藤順矢さんが出ていたこと、比較的評判が良くてその割りに当日券が取りやすかった事、そういった理由が重なって今回は急遽観に行く事にしました。そんな状況で観に行った公演だったのですけど、「おっさん」達の熱い演技に煽られてしまって、最後にはこちらまでアドレナリンが上がってしまいました。
(あらすじ)
舞台は社会人野球チームの更衣室。会社の経費削減の煽りを受けて、野球部は廃部でチームは解散に追い込まれてしまった。明日、その更衣室がチームの解散と一緒に壊されてしまうので、部員達は最後の後片付けのために集まっている。野球以外には何の取り得もないけどプロになれるほどの力はない。そんな彼等にとってはこの状況はまさに崖っぷち。
他のチームに移って野球を続けるのか?、それともこれを機会に野球から離れて第二の人生を歩むのか?メンバーひとりひとりの思いが更衣室のなかで交差する。
(感想)
設定が廃部前の野球部という設定で冒頭のシーンが結構シリアスだったので、最初は社会問題を取り込んだ人間模様を描いた作品になるのかと思っていました。確かにそうした一面もあったのですけど、それは「文字通り」一面で、一方ではコミカルタッチな一面もあります。
お芝居の組立てとしては、基本的に野球部のメンバーが全員揃うパートと、メンバーの中の2〜3人が登場するパートとが交互に切り替わりながら進行していきます。全員が揃う場面では比較的シリアスに、彼等の置かれている状況や物語の背景といった全体像が語られていて、2〜3人が登場する場面では、メンバー一人一人の人間の内面や人間関係を深く掘り下げながらコミカルに物語が進んで行きます。
普通この笑うに笑えないシチュエーションでしたら、どこか重苦しくなるか、昔のスポーツもののドラマのように空虚でわざとらしくなってしまうのですけど、部員一人一人が「こんなやついるわけないとは思うけど、もしかしたらいるかもしれない」っていうクセがあり過ぎる人間ばかりで、そのシリアスとコミカルとのギャップが物語りに厚みを作っていて、彼等が真剣になればなるほど笑ってしまいながらも、決してお馬鹿一辺倒のお芝居になっていない理由ではないかと思います。
そうは言っても、部員ひとりひとりのキャラクターの強烈さとそれを演じている曲者揃いの俳優さん達の演技がこの作品の大きな魅力だったのは間違いありません。普段は態度がでかいのにピンチになるとキャッチャーの指をしゃぶらないと落ち着かないエース。チームの要のポジションなのにメンバーを引っ張っていく人望も、サインを出したり相手チームのデータを憶える頭脳もないキャッチャー。野球センスは全くないにも関わらず生涯現役であることを疑わず、無駄に体を鍛え続ける40歳の努力の男。素晴らしい野球センスを持ち、他人から見たらどう見ても自慢話をしているのにも関わらず落ち込んでいく、超ネガティブ思考でおまけにゲイのセカンド。その他、野球が人並みより上手いという以外は問題がありすぎる人達が次から次へと登場していきます。そんな彼等が、やたらと更衣室のロッカーによじ登ったり、大人気なく唾を飛ばしながら怒鳴りあったり、いきなり上半身脱ぎ出したりしてしまいます。そんな皆さんの熱演には少々むさ苦しさを感じながらも、楽しませてもらいました。
部員達によって温度差があるとは言え、自分の唯一の取り柄といえ熱く打ち込めるもの。いつかは終わりが来るという事が分かっていても、突然それが自分の能力や努力とは別のところで奪われてしまう理不尽さ。観ていて笑ってしまうくらいに、彼等は見苦しくてかっこ悪くあがいているのですけど、そんな彼等のストレートで熱い気持ちに、最後は深い共感と爽やかな感動とがありました。
私自身は結構、自分のツボに入ったのですけど、一方でこういう状況に置かれた男達の気持ちって、例えば若い女性の方とかが観て共感できるのかなあ、と余計なお世話だと分かっていながらも少しだけ心配にはなってしまいました。見た目より中身、名より実といった感じのいいお芝居でした。