劇団鹿殺し「SALOMEEEEEEE!!!」@タイニイアリス

新宿のタイニイアリスで行われた劇団鹿殺しの公演に行ってきました。今回はオスカー・ワイルドの戯曲を下敷きにした作品ということだったので、ワイルドの古典劇をフレームにしていかに独自の舞台を作るのだろうかと思って楽しみにして見に行きました。ただ、いきなりフォークギターを抱えたアフロの高校生や、半裸のパンク男達が出てきたときには唖然としてしまい、会場の空気を無視した高すぎるテンションと、それと反比例する下品でユルすぎる展開、マニアックすぎるギャグの数々に、しょっぱなは頭の中が凍り付いてしまいました。正直最初はどうなることかと思ったのですけど、2〜30分掛かってようやくストーリーも動き出しその濃ゆすぎる展開にも馴れてくると、そこからは結構面白く観る事ができました。
ストーリー的には、2050年に戦争によって1/3まで人口が減ってしまった日本を舞台に、その日本を兄王を殺害して王位についたエロド王の娘で、身分を隠して高校に通うサロメが、王宮付きの預言者・ヨカマンに恋をしてしまうといったものです。簡単に言ってしまうとそうなんですけど、そこに娘に恋するエロド王やその妃で元兄王の妻だったエロディアス、更にサロメに恋するフォーク学生や、ヨカマンの親友で国王に敵対するイエスマンなどが登場し、ワイルドの戯曲の複雑な人間関係を生かしながら無茶苦茶だけどパワフルな舞台が展開します。
まあ、そうは書きましたけど、細かいストーリーとかはこの劇団にはどうでもいいのかもしれません。一発芸のコントを観ているようなパフォーマンスの数々と、ロックオペラのように劇の途中で入ってくる(と言っても似ているのは物語の骨組みだけですけど)、オリジナルのパンクやロックっぽい楽曲と、その曲に乗って演じられるダンス、そして一度観たら忘れられない強烈な俳優陣、彼等の持ち味はそんな所にあります。芝居もストーリーも暴走気味で時には見ていられなくなるほど荒っぽかったり強引すぎたりしたりする事が多々あるのは否めません。ただ、一見いい加減に見えてもしっかり演じている時には、ヒロイン役の菜月チョビさんや、ヨカマン役の渡辺プレラさんを始めとして、皆さん意外ときっちりとした演技をしていますし、「サロメ」のストーリーのフレームの使い方やキャラクター1人1人の人物像の作り方も、最低限の部分を押さえつつ上手くヒネリを利かせていているなあって思いました。
物語のトーンや笑い・展開など色々な部分で、「わかる人だけわかればいい」と言わんばかりに、演じる側が観る側を置き去りにしてしまうひとりよがりな部分がありますけど、それでも置き去りにした観る側を引きずっていってしまうパワーと、他の劇団では真似することのできないオリジナリティの高さには凄いものがあり、一度観たら忘れられない強烈なインパクトのあるお芝居だったことは間違いありません。
ただ、このお芝居については唯一の女性キャストの菜月チョビさんに救われている部分も大きかったと思います。仮に、今回の公演が男性陣だけのキャストだったとしたら、かなり痛いことになっていたはずです。