「びっくり箱―姉妹編」@紀伊国屋ホール

(あらすじ)
幼い頃に父親が亡くなって母手ひとつで厳格に育てられた、沢口靖子(妹)さんと余貴美子(姉)さん演じる岸本姉妹。ことあるごとに「男には特に気を付けてください、きちんとした学歴、いばって名刺が出せる職業、妻子を養っていける収入を持った人と付き合うように」と言われ続けていたのですけど、姉が30歳も半ばになってやっと好きになった人は、よりにもよって、定職も持たず、収入もない、お調子ものでちょっと怪しい、永島敏行さん演じる米倉という男。
そのことを東京に行った妹にも言えず、いつの間にか米倉も長野の家に居ついてしまっていたそんなある日、連絡もなくいきなり妹が姉のもとを訪れる。変わり果てた部屋や、見ず知らずの男の存在に、激しい憤りを感じ、姉を責める妹。
それがもとでいい争いを始めるふたり。それがまさにピークの時に、佐藤重幸さん演じる一人の男(田島)が家にやって来る。彼は妹と付き合っていて、学歴も、定職も、定収入もないうえに、彼女よりも年下でなんともいえず頼りのなさそうな男だった。
実は、妹は母の言葉や姉の非難を承知で、田島と付き合っていることを姉に報告するためにやって来たのだった...。
昭和後期を舞台に繰り広げられる、向田邦子さんの短編を原作を下敷きにして、中島淳彦さんが姉妹編として脚本を書き下ろしたコメディ。
(感想)
向田邦子さんの原作の作品を舞台で始めて観ましたけど、設定が昭和後期ということで少し古臭さは感じたものの、セリフ回しや、言葉の使い方が優しくて綺麗なので、役者さんのセリフが耳にすっと入ってくるようで目だけでなく耳にも心地よかったです。心地がいいといえば、舞台の長野の実家のセットもそうです。小道具ひとつひとつまで実に丁寧につくりこまれていて、昭和のノスタルジーな空間にまぎれこんだような気分になります。物語も一つ一つはそんなに大きな意外性がないのですけど、それが次々と畳み掛けるようにやってきて、おまけに実に綿密に仕掛けられているので、分かっていながらも物語の世界に上手く引き込まれてしまい、思わず笑ってしまいました。「男とは〜」「女とは〜」「人とは〜」、「〜というものだ」っていうセリフがあんまりにも多くて、途中でちょっとだけ「またかよ、もうちょっとほかの言いようがないのかよ」って言いたくなってしまったところに、私の中ではちょっと引っかかってしまいましたけど、俳優さんの演技、脚本、演出、セットも含めて高いレベルまとまっていて、それが全て骨惜しみすることなく良く練りこまれているので、いい意味で安心して観ていられる作品でした。キャストの豪華さに引きずられて観に行ったのですけど、決してそれだけではない、いい舞台でした。