イキウメ「短編集Vol.1-図書館的人生」@サンモールスタジオ

昨日行った公演の感想がまとまりましたので書いてみようかと思います。面白いという評判だったので見に行ったのですけど、期待に違わないいい舞台でした。公演のことを知ったのがギリギリだったので今度の機会にしようかと悩んだのですけど、次回が来年の3月の予定だそうで、結果的には行って本当に良かったです。
ところで今回の公演ですが、構成的にはタイトルの通り五編の短編からなる作品になります。様々なタイプの演目がありましたけど、共通するのは「死」や「輪廻」といったテーマが出てくる事です。不条理でありえないストーリーを、SF小説にも出て来そうな独特な設定をベースに、文学・哲学・心理学・宗教・科学などの広範な知識を駆使して描かれる前川知大さんの脚本は、独特な世界観と奇妙な説得力があります。そして、決してものすごく上手いという訳ではないのですけど、個性的で存在感のある役者さんが多く、前川さんの持つ世界観を上手く舞台の上で表現しているように思えました。
この作品で使われている、夢、記憶、死後の世界、未来等のキーワードは「目に見えないもの」といったものが共通していて、そういった「目に見えないもの」を笑ったり、ゾクッと来たりして、最後にはちょっと感動させてもらいながら演劇という形で見せてもらいました。最初の4話を演じたあとに、10分ほど休憩が入りそのあと最後の1話をやるという構成で時間的には全部で2時間半くらいだったのですけど、休憩前の段階で充分にモトを取った気分でした。舞台が少しだけ見にくかったのと、ラストの話しがやや冗長に感じたりいいところでセリフを噛んでしまったのだけがちょっとだけ残念でしたけど、それ以外は文句がないくらいいい舞台でした。評判になるのも納得で「こりゃあ来るな」って思いました。

(短編ごとの大雑把なストーリーと感想)
・図書館的人生;気が付くと図書館の中にいたひとりの男。彼は記憶を失ってしまい自分のことを何も憶えていない。彼の向かいに座るひとりの男。彼は何故か記憶を失ってしまった男のことをよく知っているらしい。記憶を失った男を執拗に呼ぶひとりの男。彼は自分のことを記憶を失った男の兄だと名乗っている。ここは一体どこで、彼らは一体なにものなのだろうか。そして、男はなぜ記憶を失っているのだろうか?
五つの短編のなかではもっとも短い作品で、時間でいうとおそらく10分もなかったのではないでしょうか。気が付いたらあっというまに終っていたという感じでした。内容的には、一発アイディア勝負といった感じなんですけど、今回のお芝居に共通する世界観や舞台設定を説明して、その後の演目に感情移入しやすくするイントロダクション的な役割も果たしているように思いました。

・青の記憶;病院の一室で出会う五人の男女。彼らは初めて出会ったはずなのに、何故かそんな気がしない。そんな五人組が病室の突如地震に巻き込まれる。揺れが治まって、ほっとしてた一行だったが、気が付くと状況は一変していた。出ていたはずの太陽は、いつの間にか月へと変わり、時計も携帯も使いものにならず、ドアの向こうにはどこまでも続く廊下のある世界。どこの世界に迷いこんでしまったのか見当がつかずパニックになりかける5人組。その時、ドアから見ず知らずの一人の男が入って来るのだった。
最初は、結構小説とかではありきたりなストーリーになるのかなと思っていたのですけど、話が思わぬ方向へ進んでいき、最後は意外なラストに。話しが暴走しそうに見えて、巧みにコントロールされ、何層にも仕掛けられたストーリーが面白くて、いつの間にか見入ってしまいました。演じている役者さんのそれぞれが個性的で、彼らの個性のぶつかりあいや掛け合いにはおもわず笑ってしまいました。そして二転三転した後に訪れる結末には、その笑いが凍り付きそうになりました。

・輪廻TM;ある寺の住職が研究のすえ完成させた時間を超える装置。ただ、この装置は世間で言うタイムマシーンとはちょっと違っていた。未来を知りたいという一人の男(?)がその装置で時空を超える。そこで果たして彼らは何を見るのだろうか?
見た目はいかついけどどこかほんわかとしたイメージのある筒井則行さんと、見た目通り頭はよさそうだけどひとこと余計でいやみな男を演じる森下創さんの二人の住職のボケとツッコミと、その真ん中に挟まれる性同一性障害者の役を演じる宇井タカシさん、この三人のやり取りが面白い作品です。仏教の輪廻転生とタイムマシーンとの組み合わせの発想が絶妙で、ストーリーとは全く関係がないのですけど、手塚治虫さんの「火の鳥」を連想してしまいました。

・ゴッド・セーブ・ザ・クイーン;これから投身自殺しようとする女の前に二人の男が現われる。二人はどうやら彼女の自殺を止めにきたらしい。しかし、止めたいのは自殺そのもので死ぬ事自体を止めようとは思ってはいないようだ。彼らは、彼女の体と記憶と寿命を回収しに世間でいうところの「死後の世界」と呼ばれる場所からきたらしい。彼らは彼女の自殺を止めることができるのだろうか?
見ているほうは最初は何が何だかよく分からないのですけど、徐々に明らかになっていく意外な真相と思わぬ方向にいくストーリー展開が面白い作品です。彼女に対して容赦のかけらもないやり取りをする緒方賢児さんと盛隆二さん演じる男二人組みと、この世に未練を残しながらも、そんな二人の思惑にはまりたくない女性を演じる岩本幸子さんのブラックでシュールなお芝居がニガニガしくも笑えます。

トロイメライ;意識不明のまま3年間を過ごし、自分の誕生日に息を引き取った一人の女性。彼女の葬式で夫の前に現われた、見ず知らずの一人の男。彼は妻と3年間をともに過ごしたという。もしそれが本当だとしても、彼女は3年間意識不明の寝たきり状態だったはずなのに。彼は一体何者で、なぜ夫の前に現われたのだろうか?
今回の五つの作品の中では最もシリアスな話しです。夢と現実の世界とが巧みにクロスオーバーし虚実が曖昧ななかで語られるストーリーはやや冗長は印象こそありますけど、美しいです。シューマントロイメライのメロデイーに乗って語られる真相には思わず感動してしまいました。