キャラメルボックス「賢治島探検記」@シアターモリエール

(頭の方はただのグチになっています。興味のない方は読み飛ばしてください)
25日付けの日記になっていますけど、実は更新をしているのは翌日の26日です。キャラメルのホームページの方に感想を書いていたのと、どうやって書いたらいいのか悩んでいたら一晩たってしまったのとで、更新が遅れてしまいました。他の方のブログとか見ていると、皆さんかなりきちんとした観劇記を書かれているので、「俺、別に書く事なんにもないじゃん」と思ったりもしたのですが、気を取り直して自分なりに書いてみようと思います。
という訳ですので、内容がかなりグダグダだったり、ブロードバンドやライブの公演を観て「全然違うじゃん」と感じる方もいるかとは思いますけど、諦めてください。冒頭からこんなことを書いているようでは、私も先日の講演会に行った時の文章で「冒頭から言い訳が多い」と書いた土屋賢二さんのことをどうこう言えないです。それにしても、さて、どうしたものでしょう。

(この辺からが本題です)
会場のシアターモリエールがわかりにくいということだったので、やや早めに家を出たのですけど、あっさりと見つかってしまったため、時間が余ってしまいゲーセンと書店で時間を潰していました。そうしたら、今度は逆に食事をする時間が足りなくなり、モリエールの近くのマックであわてて昼食を済まして会場に。座席数が二百席弱だったので、分かっていたつもりだったのですけど、入ってみて驚いたのが会場の小ささ。会場だけでなく、普段より舞台も狭いので、キャラメルの公演をサンシャイン劇場シアターアプルでしか観た事のない私にとっては、「えっ、ここでやるの」という軽い違和感と、「こんな小さな会場で彼等のお芝居が見られる」という優越感と軽い緊張感を感じました。
そうこうしているうちに、すぐ前説が始まり、今回は渡邊安理さん、阿部丈二さん、多田直人さんの、若手三人組。ところどころで少しスベりながらも、一生懸命で息のあったところを見せて、これはこれでありかなぁ、と。
肝心のストーリーの方ですが、教授と助手に引率された学生達が、賢治島を探しに新宿にやってきたという設定で、探検隊が新宿で賢治島を探すパートと、賢治の作品世界とが交差していく、といった物語です。ストーリーの基本的な構成は、以前キャラメルボックスTVで見た2002年に上演されたものと同じなのですけど、賢治の作品の演目が入れ替わっていたり、日替わりゲストが登場したこともあって、結構新鮮な気持ちで観る事ができました。
構成としては、作品の前後にプロローグとエピローグが入り、その真ん中に賢治の作品を下敷きにした演目が五つ入り、その演目の合間ごとに賢治島を探す学生達のシーンがはさまっている、といった形になっています。ちなみに、今回取り上げた賢治の作品は順番に1)雪渡り→2)注文の多い料理店→3)セロ弾きのゴーシュ→4)風の又三郎→5)銀河鉄道の夜、になります。

1)「雪渡り鈴鳴らし」(「雪渡り」より)
所々に成井さん流のユーモラスな部分はありますけど、どちらかといえば賢治の作品を忠実に演じた作品だったと思います。この作品は、歌や詩や擬音語といった言葉の響きを楽しめる要素がふんだんにあるのですけど、その辺の作品のもつ魅力も、かわいい音楽に乗せて上手く伝わっていました。お芝居にすると「なるほどこういうふうになるのか」と思い、個人的にはそういった点でも面白かったです。

2)「注文の厳しい料理店」(「注文の多い料理店」より)
上半身裸になるわ、腹筋三十回やらされるわ、最後には小麦粉をぬりたくられるわ、さんざんな目に会う紳士役の阿部さんと、左東広之さんのヨゴれた熱演っぷりも面白かったのですけど、結局おいしい所を全部もっていってしまったのは山猫役を演じた岡内美喜子さんと、渡邊さんの二人です。賢治の作品には出てこない、この突っ込み役のふたりのセクシーな演技のおかげで、ややもするとムサくなりそうな芝居が、随分と華やいだものになりました。

3)「ゴーシュ弾かれのセロ」(「セロ弾きのゴーシュ」より)
間違いなく、前半から中盤にかけてのクライマックス。母ネズミ役の畑中智行さんと、子ネズミ役の筒井俊作さんのミスマッチぶりにも笑わしてもらいましたけど、この作品の一番の見所ははやっぱりゴーシュ役の三浦剛さんと、セロ役の坂口理恵さんとの絶妙な掛け合いでしょう。(というよりツッコミあいといった方がいいでしょうか)
この二人が出てくるとさすが安定感があるというか、舞台がしまるというか、上手くいえませんがそういった感じになります。
因みに日替わりゲストはここで登場し、この日はキャラメルファンの方には携帯ソングでおなじみの、神戸在住アカペラグループ「Queen’s Tears Honey」の皆さん。三浦さんと坂口さんのパーカッションつき(もちろんアカペラで)で、それも上演中にあの携帯ソングをナマで聞けるとは思わなかったので、ちょっと得した気分。因みに、演奏が終ったあと、三浦さんと坂口さんはちょっと酸欠気味でつらそうでした。

4)「無口な風の又三郎」(「風の又三郎」より)
バックの音楽に乗って演じられるサイレント。又三郎が転校してきてから去っていくまでの少年達の9月の思い出のひとコマが、走馬灯のように情景豊かにめまぐるしく演じられていきます。個人的には、賢治の作品のなかでも簡単そうに見えて奥が深いのでビジュアルにするのが難しい作品だとは思っていたのですけど、「こういった演じかたもあるのか」とびっくりしました。

5)「光速銀河鉄道の夜」(「銀河鉄道の夜」より)
本来ならこの作品だけでも一本の舞台が作れてしまう作品にも関わらず、賢治の作品が未完成のため、限られた時間のなかで、作品をカットしつつ、そこに自分なりラストシーンのくっつけなければいけないという、なんとも脚本家泣かせのシチュエーションだなあと思います。そのために役者さんの方もその無茶な要求に耐えられる小細工抜きの演技が要求されるので、五つの中でも演じる側には一番難しい演目だったと思います。その難しい条件の中で、場面場面の切り替えでほんの少し違和感があった以外は、各ポイントを押さえながら良くまとまっていましたし、最後はきっちり感動させてくれたのは、さすがだと思いました。

全体的な感想としては、今回は会場が小さかったことや、この作品が野外劇を前提につくられた経緯もあって、セットや道具や照明、音響などの演出は抑え気味だったのですけど、その分役者さんの演技そのものが前面にでていていたり、内容的にバラエティにも富んでいたので、演劇の面白い要素というのがいっぱい詰まっていて面白かったです。おかげで、本を読んでいた時にはいま一つつかみづらかった賢治の作品世界のイメージが、自分の中で上手くビジュアルになってくれました。それですからラストの「賢治島はそれぞれの人の心のなかにある」というメッセージには深く共感することが出来ましたし、お芝居の持つ力というものを今まで以上に強く感じることができた公演でした。